16 蛇女のミレイ

「…コ!…リコ!」

遠くから何か聞こえる…?

「う〜ん…。」

「リリコ!」

「ん?ってわぁぁっ!」

目を覚ますとライくんの厳しい顔が近くにあった。

「えっ!私寝てた⁉︎」

ガバッと起きたらあたりは黒い闇に包まれていた。

「ご、ごごご、ごめんっ!」

私は慌てて立ち上がった。

「いや、俺の方こそごめん!リリコが死んでると思ってちょっと焦っただけ。」

ライくんはちょっぴり赤くなりながら周りを見回している。

「多分闇夜界に入ると、普通の人では耐えられないパワーで押しつぶされそうになるんだ。だから俺のお札で俺とリリコを守らせたんだけど、その反動で意識が失っちゃったってワケ。」

スラスラと流れて行く説明を聞きながら、上をみる。

「ヘぇ〜。って、私たちどうやって帰るの?」

私たちやばくない?帰れなかったら。

「大丈夫、ワープのお札もあるから。」

不敵な笑顔でさっとお札を取り出すライくん。

「…準備万全だなぁ〜…。」

「忘れるワケないじゃん。」

アハハッと笑いあって、さあ出発!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「闇夜界の道ってクネクネしてるねぇ。」

「それに霧がかかっていて見えずらいや。」

私たちは細い道を歩きながら呟く。

紫色の空に赤い月。

道の下は真っ黒な崖。

不気味すぎて鳥肌が立ってきちゃいそう!

「リリコって何持ってきたの?」

ライくんが振り返って聞いてきた。

あ、でもなんか日常会話してると怖さが少し薄まるな。

「えっと、動きやすいようにほとんどのものは鈴音ちゃんの神社においてきちゃったけど、まずは青玉と、ばんそうこうと、桜ちゃんがくれた赤い巾着、かな!」

「おけー。」

「?」

なんで持ち物なんて聞いたんだろう。

「もしも荷物が多いんだったらお札に入れとこうかなと思って。」

「え!そんなのもできんの⁉︎」

いつもライくんには驚かされるけど、もう技なんか超えて魔法じゃん!

「役立ちそうなお札色々作ってきたんだ。」

ライくんは笑っているけど私はカチコチにフリーズ。

先を読んでるし怖い。なんか悪精より怖い、いろんな意味で。

そーんなことをしていると、1人の女の人の声が聞こえた。

「あらぁ。もう会っちゃたわぁ。ミレイ、超ラッキ〜♪」

声がした方を向くと、20代くらいの女性がにんまりと笑っていた。

体は浮いていて、ローブをまとっている。

綺麗な黒髪はとても長い。

「お前は誰だ!」

ライくんが女性を睨む。

「もう、初対面で随分トゲトゲしいわねぇ。まぁ、そんなところも可愛らしいからいいわぁ。私の名前はミレイ。美しい蛇女よ♡」

「「蛇女っ⁉︎」」

よくみると、下半身が蛇のようになっている。

ミレイは体をクネクネさせて嬉しそうに笑う。

「そうよぉ〜、ちゃんと覚えてねぇ♡」

そしてほおを赤らめながら幸せそうにゆっくりと告げる。

「あなたたちは今からミレイの子供になるのよぉ。可愛い可愛い子供にねぇ。あぁ、また子供が増えるわぁ。これでちょうど200匹♡」

「子供?」

子供って何?

「ふふっ♡今までミレイに殺されてきた人の数よ。殺された人たちはミレイの力で蛇となり、第二の幸せな人生を歩んでいくのよぉ。でも力を与えて蛇に変化できないまま死んでいく人もいるけどねぇ♡」

うっとりと告げるミレイに私たちは恐怖を覚えた。

「そんなのになりたくない!」

私は叫ぶ。

「そうだ!そこをどけ!」

ライくんも声を張り上げる。

「そう?この美しく優しいミレイの子供にはなりたくないの?」

ミレイは目を細めて私たちを交互に見つめる。

「ミレイはみんなを救っているの。何も考えなくても生きていけるような生活を人は好むでしょう?だから蛇にしてあげて何も考えなくさせてあげるの。ミレイがずっと操っているから失敗は怖くない。痛くもないし辛くもない。幸せでしょう?」

ミレイがそこまで告げるとライくんの手がピクリと動いた。

「ふっ、みんなの幸せ?何を言っているんだ?」

ライくんが声のトーンをあげる。

「確かに人間は考えないで生きることを望む奴が多い。だけど考えることで幸せを手に入れているんだ。失敗だって怖くない!その次に成功させればいいだけの話だ!そしてもっとも蛇になりたくない奴だっている!人間にとって、人である喜びがあるんだ!お前は俺たちのことを何もわかっていない。俺たちを侮辱しているだけだ!」

ライくんの言葉の1つ1つにはとても思いが込められている。

「ふぅん?」

ミレイはそれをつまらなさそうに聞いている。」

「そしてお前は大きな誤解をしている。」

「誤解、ですって?」

ミレイは明らかに不愉快そうに顔を歪める。

ライくんは最後に一言。

「俺たちを侮辱して自己満足しているお前は優しくなんてない。そしてそのねじ曲がった心を持っているお前は美しくなんてないっ!!」

ライくんがそう言い終わった頃にはミレイの顔が険しくなっていた。

「美しくないぃぃぃ?貴様ぁ、今言ってはいけないことを言ったねぇぇ?」

ミレイの声はみるみる低くなっていき、目は蛇のように細くなっていった。

「ミレイに向かって暴言を履いたこと、後悔するんだねぇ!今からお前らは、ミレイの食い物となるっ!」

もうこれは完全にお怒りモードだ。

「リリコ!行くぞ!」

「うん!」

ライくんの合図で、私はミレイの後方、ライくんは前方に移動した。

「今までの罪を償えっ!」

ライくんはお札を貼ろうとしたその時。

ミレイの下半身からウジャウジャと蛇が出てきた。

「さぁさ、可愛い子供達。あの害虫どもからお母さんを守っておくれ!」

ミレイはその蛇をライくんと私の方に向かわせた。

「ウギャァァァァァ〜ッ!!!気持ち悪いぃぃぃぃっ!」

うねうねと動いてやってくる蛇たちは私をロックオンしてどこまでも追いかけてくる。

「リリコ!これ渡しとくから使って!」

「ライくん!」

振り向くとライくんが大量の蛇に蹴りを入れながら何枚かお札を持っていた。

「パスッ!」

私はライくんから投げられた10枚のお札を頑張ってキャッチ!

「ナイスキャッチ!頑張って!」

「うん!ありがと!」

よし!いっちょやりますか!

私はお札を一枚取り、呪文を唱える!

「時と共に眠れ。空と繋がり星を取り、今、今宵の元へ封印せよ!」

そして、蛇に向かってお札をビシィッ!っと貼る。

「攣!」

すると、蛇はシュウウッと消えた。

よし、このまま全部片付ける!

ビシッ!ビシッ!ビシッ!

どんどんお札を貼っていって、残り一匹。

「時と共に眠れ。空と繋がり星を取り、今、今宵の元へ封印せよ!」

ビシィッ!

「攣っ!」

シュウウウウッ…。

「やった!」

私は自分で全部やったんだな、と思うととても嬉しくなる。

「ライくんはどう?ってえええええっ!」

振り向くと、50匹ぐらいの蛇と戦っていた!

でもライくんはすました顔でお札を貼って行く。

「悪霊退散っ!」

あっという間に50匹全てを倒してしまった。

「すごいね、ライくん!」

「修行してきたからね!」

私も見習わなきゃだな!

「くっ!なんで!」

ミレイは顔を歪めながら悔しそうに拳を作る。

「なら次はミレイが相手だっ!」

そう言うとミレイは手を広げた。

「悪精技・蛇鼓動!」

ミレイはそう告げると、ミレイの手から音波が放たれた。

「うぅっ!」

私は思わず耳をふさぐ。

「ふふふっ♡ステキな不協和音でしょう?この音は人間の脳をえぐるほどの音よ。さぁ、せいぜいもがき苦しみなさい♡」

ミレイは勝ち誇ったように笑うけど、それは一瞬のことだった。

「何がもがき苦しむんだ?」

いつの間にかライくんがミレイの後ろにいた。

「なにっ?」

ミレイが振り返った時にはもう遅い。

ライくんは一回り大きなお札を取り出してこうえる。

「ウメノミコトよ!悪を払い申し上げます!」

大きな声で唱え終わると、お札をビシッと叩きつけた。

「咲け!」

最後に唱えると、ミレイは花びらとなってちっていく。

「な、なんでぇぇぇ!大三魔の1人の私がァァァァ!嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁっ!醜い生物どもめぇぇぇぇぇ!うわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ミレイは叫びながら消えていった。

「…やった?」

「ああ。」

すごい。ライくん、一瞬で倒しちゃったよ。

「でも結構強かったね。あの蛇が邪魔だったよ。」

振り向いたライくんはいつものライくん。

「さぁーて、気を取り直して進みますか!」

ライくんがうんと伸びをしてそういったとき。

『2人ともおめでとーっ!ミレイを倒せてたところ、すごくよかったよー!』

どこからか聞いたことのある声。

「セツ⁉︎」

ライくんが名前を呼ぶ。

『この闇夜界は全部僕が操っているんだ。だからどこからでも僕の声を流すことができるってわけ。』

「セツっ!桜を返せ!」

ライくんは空へ向かって言葉を投げつける。

『まぁまぁ話を聞いてよ。ほんとライはいっつもそうなんだから。ま、でもんミレイを封印できたのは褒めてやってもいいけど?』

セツくんは偉そうに挑発する。

「別にお前に褒められても嬉しくないから。」

ライくんは冷静に聞く。

『つまんないのー…。あ、そうそう!リリコーっ!元気にしてた?また会えるの嬉しいなぁ。早くこっちに来てねーっ!この馬鹿ライをよろしくーw』

「っ!」

一体何をたくらんでいるの?

「馬鹿ライってヒドイ!」

私もセツくんに向かって叫ぶ。

『ふふっ。怒ってるリリコも可愛いよ!じゃ、2人とも生きてたらまた会おうね~っ!』

セツくんの声はこの言葉を最後に途切れてしまった。

「あんなヤツ、生きててもまた会いたくない。」

「私も…。」

セツくんと話していると調子が狂っちゃう。

ヒドイ言葉を投げかけてくるセツくんは何考えてるんだろう。

「はぁ、じゃ、いこ。」

って言った時。

『ごめんごめん、言い忘れたことがあったぁ!』

「「また⁉︎」」

セツくんが何やら楽しそうな口調。

もう話したくも聞きたくもないよぉ〜!

『この闇夜界には僕の手下の大三魔がいるんだ。悪精の中でも特別な能力を持っていたり強い奴の集まり!さっきのミレイもその1人。そんなに強くなかったみたいだね!ミレイは序の口のそのまた序の口だよ。じゃ、大三魔のもう1人向かわせるからお楽しみに〜!』

プツッ

声が途切れた頃には私たちは揃って「えぇぇぇっ」て顔。

「めんどくさぁぁっ!」

ライくんが叫ぶ。

「ミレイが序の口のそのまた序の口…。」

私はあんなに強いミレイよりもっともっとつよい悪精がいることの絶望して今のも失神しそう…!

それに大三魔ってメチャクチャ強そうな名前じゃん!

「じゃあいっちょいきますか!」

ライくんは勇敢な笑顔で道の先をみる。

「気持ちの切り替えはやっ!」

「ほら、リリコ置いてくよ?」

「まってよおお!」

あー、生きて帰れなかったらどうしよう!!

生きて帰れない。

生きて帰れない?=死⁉︎

そうなことを考えて涙目になった時、

「大丈夫。絶対に桜連れて帰るって言ったじゃん。」

ライくんがニッと笑う。

そうだ、こんなところでへこたれてはいけない。

私は涙を拭って歩き出した。

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