12 悲しい過去
セツくんが消え去って私はしばらく呆然としていた。
ずっとこればかり考えてた。
桜ちゃんはセツくんの仲間になっちゃったんじゃないかって。
だってさっきセツくんが呟いてたんだもん。
−「桜が余計なことしなければよかったのになぁ。」
って。
桜ちゃんがライくんを傷つけるような人と仲間になるはずない。
と信じたい。
そう考えてたら、ライくんが苦しそうに立ち上がってこう言った。
「セツのやつ、もしかして…。桜が…。」
そんなことをボソッと言ってた。
後の方が小さくて聞こえなかったけど、桜って名前は聞こえた。
「ら、ライくん!あの、セツくんって何者なの⁉︎桜ちゃんと関係があるの⁉︎ねぇ、教えて!」
私は泣き叫ぶかのように問いかけた。
そんな私を見たライくんはため息をついて、
「立ち話もなんだから座ろう。」
と一言そう言って公園のベンチを指差した。
「うん…!」
ってことは聞けるってこと?
早く話が聞きたいよ…!
ベンチに腰掛けると、ライくんは言った。
「やっぱり選ばれし者なんだなぁ、リリコは。」
公園を見渡して呟いたライくんの横顔は安心していても少し寂しげが混ざっている。
「悪精って選ばれし者と、長年神職をしている家系じゃないと見れないんだ。」
えっ⁉︎そうなの⁉︎
「だから普通の人は気づかなくて、ただの地震に感じるんだ。それに、ほら。あんなに悪精が暴れまわったってのに遊具がつぶれたり壊れたりしてるぐらいで、大した変わりはないだろ?これはそういう風に他の人には地震と思わせるようにしている悪精の工夫らしい。」
確かにそう言われてみると遊具はさっきの揺れで壊れた感じだ。
まるでさっきの出来事が夢のようだったように。
「あの…ライくん。それで、セツくんは何者なの?」
おずおずと訪ねてみるとライくんは「ああ、」と過去を見つめるような目をした。
「セツは俺の双子の弟だ。そして、悪精の産み親だ。アイツは人の命の大切さを知らずに好き勝手にしているやつだ。」
短い説明で終わってしまった。
「あの、桜ちゃんとは何か関係あるの?」
私が一番聞きたかった質問をすると、
「ああ。深い関係がある。桜は神社で偶然、青玉を見つけたんだ。桜は俺たちに相談してくれたんだけどうちの父さんが『持ち帰っていいぞ。』って言ってくれたから桜は嬉しそうに持ち帰った。桜の両親も大切にしてくれてたんだって。でも、それはたった一瞬のことで。セツも青玉を探していたから、偶然桜が持ってると気がついて桜の家を襲撃。桜の両親は悪精に殺され残りは桜1人。桜は最愛の両親を殺され呆然としていたらしい。そしたらセツが青玉を差し出せって言ったんだって。でも桜は家族との思い出の品を渡さなかった。」
桜ちゃんの家にそんな事が…。
だから引っ越したのかな。
「だからしょうがなく桜の手にセツの首に下げていた黒玉を触れさせて、仲間にしたんだ。黒玉を触るとセツの手下となって操られてしまうこともあるんだ。だけれど桜さ、あまりにも心が強かったから一時的に自我を取り戻せるようになったんだ。だから多分、桜は青玉をセツに渡さないようにリリコに渡したんだろうなぁ。」
桜ちゃんはセツくんに無理やり仲間にさせられた。
そして私に託してくれた。この青玉を。思い出の品を。
「でも、私に渡したことを知ったセツくんは桜ちゃんをどう感じるんだろう。」
私が言うとライくんは深刻な顔でこう告げた。
「もしかしたら桜が危ないかもしれない。なんらかの罰を受けている可能性が高い。」
「えっ⁉︎」
桜ちゃんがもしかしたら痛い思いをしてるかもしれないって事?
どうしよう、最悪の場合桜ちゃんと二度と会えなくなるような取り返しのつかないことになってしまうかもってこと?
いやだ!そんなの絶対にいやだ!
どうすればいいの、私!
私は震える冷たい指先をぐっと握りしめた。
そんな私を見てライくんが暖かい声でこう言ってくれた。
「大丈夫だリリコ、桜は絶対助ける。」
なんでだろう、この言葉を聴いたら心が温かくなってきた。
大丈夫だって感じられる。
「でもそのためには情報収集だ。セツのいる場所はこの世界の反対側。「
闇夜界。
怖そうなところだけど、桜ちゃんを助けなきゃ!
あ!そうだ!
「ねぇライくん!セツくんにもらったこの笛を吹けばセツくんに会えるかも!」
私なりにいい提案だったと思ったけれど。
「…うーん、それを使うと何かいけない気がする。それにその笛を吹いたらセツの手下になるように術がかけられているかもしれない。」
確かに最もだ。
セツくんって勝つためなら手段選ばないって言ってたもんね。
「じゃあ今日は解散で。俺は父さんたちにバレないように部屋に戻る。リリコは家に帰っていいよ。情報収拾は明日学校で知ってそうな人に聞こう。」
「うん!」
学校に知ってそうな人なんていないんじゃないかなって思う気持ちもあるけれど、何か情報つかめるといいなっ。
私は祈るような気持ちで家に帰って言った。
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