11 黒河 雪

タッタッタッタ…。

ただいま私、全速力でランニングしていますっ!

もう今にも息が途絶えそうで苦しいんです!

「ま、待って。ら、ライくん!」

体力があるライくんはそんな声を聞いて後ろをくるり。

私を見たライくんの目は笑っております…。

「ガーンバレっ!」

もう頑張るどころじゃないんだヨォ!

死ぬ!死にますってこれ!

悪精倒す前に死にますよ!このランニング!

「急がないと街にも被害が大きくなっちゃうから!」

「ええ〜っ!!」

ライくんの走るスピードがどんどん早くなっている気がするのは気のせいですか⁉︎

そして地獄のランニングが終わり、悪精の元へ到着!

そこは白梅東公園。

遊具なんてめちゃくちゃになってる。

それより悪精!

とってもおっきい!20mくらいかな?もっとおっきいかも…!

「リリコ!」

ライくんに大きな声で名前を呼ばれる。

「はいっ⁉︎」

私も聞き返す。

「今から俺は封印のお札をコイツに貼りまくる!リリコはタイミングを見てその勾玉で怪物を封じ込めるんだ!呪文はいつもと同じでいい!」

そしてライくんはバスケの時みたいにビュンッと高く跳ぶ。

そしてお札を一枚ずつ貼っていく。

貼るたびに悪精はうなるけど効いていないみたいにお札を振り払っている。

ライくんは頑張ってくれているけどこのままじゃ体力が持たなそう。

ライくんの顔にもうっすらと疲れが見える。

「私がやらなきゃ!」

私も悪精の方へ走ってライくんが何枚かくれたお札を一枚取り出す。

そして悪精へ投げつける。

が。

お札は悪精に張り付かず飛んで行っちゃった。

「ムズッ!」

2枚目。3枚目。4枚目。

なんと、最後の一枚になってしまった。

「次こそはっ!」

狙いを定めてお札を投げる。

ビュンッ!

風を切って行くお札は悪精に張り付いた!

「時と共に眠れ。空と繋がり星を取り、今、今宵の元へ封印せよ‼︎」

「ウガアアアアアアッ!」

悪精は叫ぶ。


れんっ!!!」


しっかりと覚えていた私、エライ!

自分を褒めたくなるくらい清々しい気持ちで悪精を見上げる。

そうすると悪精がたちまち消える。

「やった!やったよね!やったよライくん!」

私はライくんのもとへかけよる。

するとライくんも

「すごいよ、リリコ!やったね!」

笑顔で返してくれた。

ふと消えた悪精の方を見ると1人の男の子がこちらを見ていた。

私と目があうとその子はにっこりとする。

「ライくん、あの子知り合い?」

私が尋ねるとライくんは私の指差している方を見て

「えっ…」

と目を見開いた。

「ライ、いい子見つけたね。よかったね。でもこんなのまだ弱い悪精だよ?」

男の子はゆっくりとそう告げる。

無邪気に笑うその子をよく見るとライくんとそっくりだった。

でも少し背が低くて無邪気な彼は少しライくんと雰囲気が違う。

シンプルで飾りもないはかまを着ていて。

片方の耳にはお守りみたいなものをつけていて、首には黒い勾玉を下げている。

じっとその子を見ていると、今度は私の方を向く。

「君、よくやったね!すごいすごいっ!君のこと試そうと思って出した悪精をすぐに倒しちゃったんだから!さすが、青玉の持ち主だね!」

男の子は笑顔を崩さないまま話し続ける。

「桜が余計なことしなければよかったのになぁ。まぁ、いっか!この子を僕のものにすればいいんだし!」

「桜ちゃんのこと知ってるの⁉︎」

私は桜ちゃんの名前がいきなり出てきたから気になってしまった。

「教えてあげる?」

男の子は優しく笑いかけてくる。

その笑顔が少し怖かったけど聞いてみたい。

「お、教えて!」

私が言うと、男の子は何かたくらむような顔をしてこういった。

「ふーん…。じゃあこの後僕の勾玉を触ってくれる?」

その黒い勾玉を…触る?何をしたいの?この子。

別に触るぐらいだったらいいけど…。

そう思いかけたとき。

「リリコ!ダメだ触っちゃ!その黒い勾玉を触ると悪に取り憑かれてこいつの手下になるぞ!」

ライくんが叫んだ。

あ、悪に取り憑かれる⁉︎手下になる⁉︎

「い、嫌です!やっぱり!」

私は男の子に向かってそう叫ぶ。

すると男の子はつまらなそうな顔してライくんを睨む。

「ライ、余計なこと言わないで?」

男の子は指をパチンとならすと黒い影みたいなものたちがライくんを締め付ける。

「くっ…!やめ、ろ!」

「ライくん!」

苦しそうなライくんをみて私は男の子がひどく思えてきた。

「何するの⁉︎あなたは誰⁉︎」

私は聞いた。その答えはあり得ない答えだった。

「僕の名前は『黒河 雪』!セツって呼んでね!ライの弟だよ!」

まるでライくんのことなんて何も気にしてないみたいに笑う。

「ライくんの…弟?」

ライくんに弟がいるなんて初めて聞いた。

セツくんはゆっくりと私に近づいてくる。

そして私に満面の笑みを向ける。

「僕の手下って言っても君は手下として使わない。宝物として使うから。」

なんで?どう言うこと?

セツくんの言っていることがよく分からないよ。

「僕はね。勾玉たちを探してるんだ。でも勾玉だけ探しても選ばれしものしか触れられないからその選ばれしものごと探してるの。だから君はその1人ってこと!」

そしてセツくんは目を細めてライくんを見る。

「だから手下になりなよ。こんなライと一緒に戦うよりはずっと楽かもよ?」

そしてセツくんはまたパチンと指を鳴らす。

するとライくんを締め付けていた黒い影たちはシュウっと消えた。

「もしも望むならライごと手下にしてもいいよ?僕、勝つためなら手段選ばないから。」

「セ、セツっ!」

ライくんは苦しそうに説くんを見上げる。

こんなの私の知ってる兄弟じゃない。

「私、ならないよ!せ、セツくんの手下なんかに!」

私は倒れているライくんの前に立ってセツくんを睨んだ。

するとセツくんは「ふうん。」と言って笑みを浮かべた。

「じゃあ今日はいいや。もし気が変わったらこの笛を鳴らして!僕が行くから。」

そう言ってセツくんは1つの笛を私の手の上に置いた。

「あ、あと君の名前は?」

セツくんがにっこりと聞いてくる。

「私はリリコ!ライくんの仲間!」

私はにっこりとしたセツくんを思いっきり睨みつける。

「そっかぁ、リリコね!可愛い名前だから覚えやすいや!」

セツくんは綺麗な顔で明るく笑った。

そしてライくんに悪者みたいな笑みを向ける。

「ライ、リリコをよろしくね。頑張っても無駄だよ?もうすぐリリコは僕のものになるんだから。」

そういってセツくんはフッと消え去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る