9 美味しいクッキー

日曜日−


「よぉしっ!」

気合を入れて私・リリコは自分の拳を突き上げる。

服装はシンプルで動きやすい服。

バックの中にはお腹が空いた時に食べる用のチョコとクッキー。

そう!今日は日曜日!

ライくんが昨日ひどい目に遭わされていたからライくんが大丈夫か気になって神社に潜入捜査します!

名付けて「ライくん救出作戦」!

別に救出するわけじゃないけどなんかこの言葉使ってかっこいい(気がする)ので使ってみました!

「お母さん、行ってきまぁす!」

流石にまた友達と遊ぶは変だから学校に自習に行くって言ったんだ。

「言ってらっしゃい。昨日と今日とで忙しいわねぇ。」

ま、まぁバレてはいないか。

玄関から出て、てくてく歩いて目指すは神社へ。

大丈夫かなぁ…、またひどい目に遭わされていたりして…?

殴られている姿を想像しただけでブルブルっと体が震える。

綾女さんも巫女さんもちっともライくんのことを助けなかった。

なんで?桜ちゃんに何か関係があるの?

神社に行くのがだんだんと怖くなってきた。

足のスピードも遅くなってくる。

あれはライくんの家族事情だから私は関係ないのかもしれない。

行ったら行ったでライくんにとっても迷惑かもしれない。

「行かないほうがいいのかも…」

そう思った時。

ふと、頭にライくんの笑顔が通り過ぎて行った。

「ライくん…。」

やっぱり行こう。

迷惑になってでもライくんに会いたい。

大丈夫だったか聞きたい。

もしもライくんの心が締め付けられているのなら話を聞いてあげたい。

「ライくん、今行くね!」

私はいつの間にか走り出していた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ハァ…、ハァッ、フゥ。」

やっと着いたぁ〜。

いっぱい走ったから喉が渇いちゃったなぁ。一応お金持ってきたけど自販機ないかな?

キョロキョロしていると、昨日私とライくんを見て「青春ねぇ。」なんて呟いていたおばあさんがいた。

おばあさんは私の方を見ると、

「まぁ!昨日の女の子じゃない。」

覚えてもらってたんだ。

あ!そうだ!自販機ないか聞いてみよう。

「あ。こんにちは!あのう、ここら辺に自販機ってありませんか?」

聞いて見たけど

「自販機?ここら辺にはそういうのなくてねぇ。」

うわぁ…。どうしよう!神社の人達にはもらえたとしてもなんでここに来たか聞かれて帰されちゃうもんねぇ。

困っていると、

「あなた、もしかして飲み物持っていないの?」

おばあさんが話しかけてきた。

「…はいぃ、そうなんですよぉ。」

げっそりした私を見ておばあさんはニッコリ。

「じゃあこれをあげるわ。元気出して。若い女の子は笑顔でいなくちゃいけないわよ。」

おばあさんは私に冷えたスポーツドリンクのペットボトルを差し出した。

「えっ!いいんですか⁉︎」

「私ねぇ、最近ここら辺をジョギングしてるの。それでスポーツドリンクをいつも二本ぐらいバックの中に入れているのよ。私は一本で十分だから飲みなさいね。」

優しくおばあさんは微笑んだ。

「えっと、じゃあ、ありがとうございます!」

ふー!助かったぁ!

冷たいスポーツドリンクをごくごく飲んだら元気出てきた!

おばあさんとは「さよなら」って言って、いよいよ神社へ潜入開始!

何個も連なる鳥居をくぐって、時には掃除している巫女さんにバレないように茂みに隠れたり。

スパイ気分でがんばった私は、やっと神社に着いたよ!

ここからが本番。油断したらすぐに見つかることは分かっている。

そぉっと神社に入ってあることに気がついた。

「ライくんの部屋ってどこ?」

一番大事なの忘れてきちゃった!

マズイ。これはマズイ。マッジでマズイ状況だ。

どーしよーって頭を抱えていると、

「あっ!リリコちゃーん!リリコちゃんじゃん!」

聞き慣れた男の子の声。

「リィくん!…とみんな!」

あ、そっか。オバケたちって神社に住んでるんだっけ。

「あれっ!でもそんな大きな声出したら気づかれちゃうよ?」

アワアワすると、

「だっいじょーぶ!ライの封印したオバケたちの声や姿は指定された人にだけしか聞こえなかったり見れないんだよ。」

リィくんの詳しい説明を聞き終わると、ムーくんが私を不思議そうに眺める。

「今日はなんで来たの?昨日来るって話は聞いてたけど、今日はくる予定なかったよね?」

なんで私がくる予定なんて理解してるの⁉︎コワイ!って気持ちは置いといて、とりあえず説明説明!

「あのぅ、昨日何があったか知ってる?」

私が尋ねると、

「「「「「「ううん?」」」」」」

オバケたちは顔を見合わせて首を降る。

「えっとね…、こんなことがあったの…」


昨日の出来事、そして今日来た理由を話し終わると、

「なるほど。それで心配になって様子見に来たんだが場所が分からないという事だな。」

「うん!そうなの!」

珍しくあんまりしゃべらないジンくんも相談に乗ってくれるみたい。

「確かにライくんのお父さんたち少し厳しいわよね。ライくん、中学校始まる前から怒鳴られたり暴力降られたりひどいことされてたわよ。」

ため息交じりにナナちゃんは言う。

「でも優しいね。普通の人だったら怖くなって会いに行こうとなんてしないよ?」

サナちゃんは場を明るくしようとポジティブ発言。

そして最後にセイレーンのセレナちゃんが

「ライくんのお部屋、教えてあげよっか?」

優しく笑ってきた。

「え⁉︎いいのっ?ありがとう!」

でもそれだけじゃオバケは満足できず、互いに顔を見合わせて、

「「「「「「そのかわりにっ…」」」」」」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ここがライくんのお部屋かぁ。」

ライくんのお部屋は神社の端っこにあって、洋室らしい。

「でもトイレ掃除かぁ。」

オバケたちに部屋を教えてもらう代わりとして、私はトイレ掃除をすることになってしまったんだよ…。

いつも放課後のトイレ掃除ってオバケたちがやってるんだって。

ライくんが修行の一環って言ってやらせているらしい。

それを1日私がやることに…!

まぁでも、オバケたちはいたずら好きってよく言うし(いたずらか?これ)、しょうがないか。

「それよりっ!」

私は深呼吸をしてドアを開けようとしたけど、

ガチャガチャガチャっ

全然開かない。

「こっこの!開けぇ!」

でも開かない。鍵がかかっているんだ、きっと。

その時足音が聞こえた。きっと巫女さんの。

やばい!気づかれる!

早く!早く開いて!

なんどやっても開かない。

諦めかけた頃、私の首に下げていた勾玉がピカッと光り出した。

「キャッ!」

その勾玉は鍵の形になって自動的にドアの鍵穴に差し込まれ、グイッと一回転。

ガチャッ!

ドアが開いた!

急いで中に入ってドアをバタンと閉める。

ドアの向こうで「今、何か音しませんでした?」「そんなはずはありませんよ。」なんて声がした。

ふぅ。バレなくてよかったぁ。

安堵のため息を漏らすと、後ろから

「…リリコ?」

掠れているけれど、いつもと変わらない綺麗な声。

ライくんの声だ。

振り向くといつものサラサラの髪は少しパサついていて、目にはクマができている。

泣いたのかな?目も赤くなっている。

ボロボロのライくんを見て私は絶句した。

「リリコ…。リリコ…。なん…で?」

そんな掠れた声を聞いて私はライくんに向かって走った。

そしてライくんをギュウッっと抱きしめた。

「ライくん!ライくん!痛かったね、苦しかったね。あの時助けられなくてごめんねっ。でもこんなライくんは見たくなんてなかった!ごめんねっ、ごめんねっ…!」

私の目から涙が一粒、二粒とこぼれ落ちた。

「本当にごめん。私がきたのが迷惑なのはわかってるっ。でもっ!会いたかったの!話したかったの!こんな弱虫だけど…!」

泣きじゃくって言葉を発したら、

「でも…俺のこと嫌いでしょ?こんな俺のこと気にしたらリリコも嫌な目にあう…!」

ライくんの私を思って苦しそうに告げた一言。

私は我慢できなくなって強くライくんを抱きしめてこう言った。

「ライくんのことなんて嫌いじゃないっ!私はどんなライくんでも大好き!だから、心配させて!」

とうとう私はライくんを抱きしめた手をはなして座り込んで泣いてしまった。

こんなにしつこい私のことをライくんはどう思っているんだろうか。顔をあげるとライくんが私のことを優しく抱きしめていた。

「ライ…くん?」

「俺の方こそごめんっ!俺もリリコと話したかった!でも父さんたちに負けてばかりの俺がなさけなくてっ…、心配かけてごめんっ!」

気づけばライくんまで涙を流していた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そのあと、私とライくんは涙も落ち着いて2人で気まずい空気になっていた。

あ、そうだ。クッキーでも一緒に食べよっかな。

「あの…ライくん、お腹空いてない?」

私の言葉に「空いてない」と答えようとしたライくんは口を止めた。

いつもなら人のために無理をするライくんが。

ちゃんと正直に「空いてる」っていってくれたんだ。

「ご飯抜きになっちゃって…。」

ライくんは悔しそうに、苦しそうに唇を噛み締めた。

「じゃあこれ2人で食べよう?」

持ってきてよかった!お腹空いた時用に持ってきていたチョコレートとクッキーをバックから出す。

「いいの?」

ライくんはびっくりしていて目をまん丸にする。

「うん。辛いのはライくんの方だもんね。」

私はそう言ってクッキーとチョコを一個ずつ開けて、チョコをクッキーの上に乗せた。

「これ、食べてみて!あったかくしてとかした方が美味しいんだけど、このままでも美味しいよ。」

「…ありがとう…。」

ライくんはそれを手にとってパクリと一口食べた。

するとライくんの目からまた涙が溢れてきて。

いつもの綺麗に整った顔はぐちゃぐちゃになった。

「美味しい。」

泣きながら食べたライくんは、私に泣きながら笑顔を向けた。

「ありがとう。俺もリリコのこと尊敬してる。今まであった友達の中でいちばんの友達だよ。」

よかった。ライくんの役に立てた私は安心しながらクッキーをパクっ。

その甘い味は今まで食べたクッキーの中でいちばん美味しかった。

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