8 ライにとって
リリコが家に帰る前の神社-
パシン!
父さんは俺・ライの頬を叩いた。
そしていつも神社に来た人に向ける優しい目とは反対に、凍てつく刃みたいな目を俺に向ける。
ドタッと倒れた俺にリリコが近寄ろうとしてくれたけど母さんに止められたらしく、悔しそうな顔で部屋を出ていった。
「父さん何するんだ!」
俺は立ち上がり言葉をぶつける。
そうするとまたパシンと叩かれた。
今度は倒れなかったがそれを見た父さんが僕の首に手の横をガッとぶつける。
クラリとよろけた僕はいつの間にかいた巫女さんに取り押さえられた。
後から来た母さんも俺のことなど気にもせず上から見下ろしてくる。
「父さんにっ…母さんはっ!神様のいるこの部屋で暴力を振るっていいとでも思っているのかっ⁉︎」
やっと告げた俺の言葉に父さんと母さんはなんとでも無いようにこう告げる。
「いいか、ライ。家の神様は父さんの味方だ。お前がどうこうという話では無い。」
「親のいうことを聞いて、伝えるべきことは伝えると教えたはずでしょう?あなたをそんな子に育てたつもりはないのですが。」
ザクザクと突き刺さる言葉に頑張って耐えながら問いかける。
「父さんたちが怒っている理由は桜のことを話さなかったことだろ⁉︎」
「ああ。それに怒っている。なぜそんな大切なことを言わなかった?こっちが聞きたい。」
「だって!そんなこと話したらいずれリリコが苦しい思いをすることになる!絶対に父さんたちはリリコに真実を言うだろ?人の苦しい気持ちを知らないで!」
俺の言葉を聞いて、母さんが最後に口を開いた。
「どうでしょうね。今の話からするとライはリリコさんに桜のことをちっとも話していないようですね。きっとリリコさんは何も話してくれないライのことを嫌っているんじゃないですか?人の苦しい気持ちを知らないのはあなたの方ですよ、ライ!」
「っ……!」
あまりにもサイテーな皮肉に聞こえてしまうのは俺だけなのかな。
俺は心に力がなくなってガクッと座り込んだ。
「罰として今日と明日は風呂以外、月曜日まで自分の部屋から出ないこと。」
目を座らせた母さんに冷たく言い放たれ巫女さんたちに無理やり部屋に戻された。
部屋の扉がバタンと閉まり、鍵をかける音もした。
そのあとどれくらい部屋の入り口で立っていたんだろう。
気づけばもう夕方になっていたんだ。
俺はベットに腰をかけため息をつく。
母さんの言う通りなのだろうか。
俺はリリコに嫌われているのだろうか。
初めて会った時、リリコはそこらへんの女の子と同じように、価値がある人だけを褒め称え、その他は踏みつけにする差別をするような子だと思っていた。
女の子は顔がいい男、性格がいい男、勉強ができる男、運動ができる男、お金を持っている男を利用する醜い人間。
と思っていた。
でもリリコは違かった。
怖がりで臆病でとても弱い子。
でもとても優しいんだ。
それからなのかな。
女の子を悪く思っていた自分に反省するようにもなった。
父さんと母さんはリリコのことをわかっていない。
誰かを嫌いに思う子じゃない。
誰かを踏みつけにするような薄汚い心を持つ子じゃない。
俺がオバケを紹介したって「キモい」とか「汚い」とか言わなかったのを俺がこの目で見たんだ。
素直にその状況を受け取って、オバケではなくみんなと同じように接していた。
だからリィも気に入ったんだろうなぁ。
リリコに会いたい。
話を聞いてもらいたい。
そして桜について話せなかったことを謝りたい。
お願いです、神様。
リリコに会わせてください。
お願いです。お願いです。
もう一度…今度こそ…、
俺がリリコと話したい。
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