第33話 陽キャに震える

三浦君たちの陽キャグループの二人、山口君と長谷川君に一緒に行こうと言われたら、僕の様に自慢じゃ無いけど、押しの弱い人間が断れる訳ない。僕は曖昧に頷くと一緒に歩き出した。


ていうか、何で僕が真ん中?洒落たツーブロの派手な顔の山口君は、細身の身体だけど多分クラス一足が速い。いかにもサッカー部という感じの山口君が僕に言った。



「なんか橘、帽子のイメージ無いな。イメチェン?」


僕は似合わないのかなと少し顔を熱くしながら答えた。


「…ちょっと髪切り過ぎて。」


すると、左側にいたバスケ部の長谷川君が山口君に言った。


「おい、揶揄うなよ。橘は繊細なんだから。いや、似合ってるよ。俺もキャップ好きなんだよね。今日もほら。カッコいいだろ、これ。」



そう言って自分の被っていたキャップを見せてくれた。ステッチの効いた何処かで見たような帽子は、きっとブランド品なんだろう。僕の被っていた帽子は従兄弟のお下がりだけど、物は悪くないと言っていた。


一応僕も気に入っている帽子なので、脱いで手に取って見せた。ひとしきり長谷川君に帽子のレクチャーを受けた後、もう一度被ろうとした時、山口君が僕の手を掴んで言った。



「せっかく髪切ったんだから、脱いでおけば?顔見えて随分雰囲気変わったし。なぁ、長谷川もそう思うだろ?」


僕が戸惑っていると、長谷川くんもニカっと笑って言った。


「ああ、そうだな。そっちの方がいいな。文化祭の時の橘っぽくて。普段橘って目立たなかっただろ?でもポテンシャルはあったよ。結構未だに橘の画像SNSに出回ってるくらいだから。」



僕はぎょっとして、長谷川君に尋ねた。


「え?それってどう言う意味?」


すると山口君が自分のスマホを指でなぞって僕の前に差し出して見せてくれた。…なんか『あの子は誰?黒髪メイドの謎!』というまとめが出来ていて、僕のメイド姿が何枚か集められていた。普段の僕のスナップ写真まで。まるで別人だけど…。


僕は引き攣った顔でその画面をじっと見つめて言った。



「…はは。なんか虚像だけ独り歩きしてるんだね。…参ったな。」


僕がそう言って黙り込むと、山口君がニカっと笑って言った。


「大丈夫だって!こんなの一過性の遊びだからさ。それにこうやって私服の橘見たら、このままでも全然可愛いから!安心しろ?」


僕は思わず二人にボヤいた。


「僕は可愛いとか、全然狙ってないんだけど。むしろ18歳男子でそれってどうなんだろ。終わってない?いや、終わってるよね。…え、僕終わってる?」



すると二人は顔を見合わせて弾ける様に笑うと、長谷川君が言った。


「やべえ、橘って結構毒舌だったんだな。俺結構好きかも。もっと毒吐かれたい!」


え、長谷川君ってヤバい人なのかな…?僕は思わず山口の方へ寄った。それを見ていた山口君が、長谷川君を指差して笑って言った。


「グフっ、長谷川、橘に怖がられてんじゃん。ドMかよ。」


ああ、陽キャのノリにはついていけないよ…。


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