第34話 バーベキュー

「えーと?バーベキュー会場のテーブル3から8だってさ。」


山口君が、スマホを眺めながらそう言うので、僕らは館内の案内に従ってバーベキュー会場へ向かった。最近出来たばかりのこの進化系スーパー銭湯は、イベントをするのにもってこいの仕様になっていて、若者にも大人気だ。


屋根付き屋外テラスに到着すると、奥の方にもう半分以上のクラスメイトが来ているみたいだった。僕はキョロキョロと見回して、キヨくんと目が合うと妙にホッとした。



「これって、どーゆう席決めなの?」


長谷川君が僕の頭上で幹事の三浦君に呼びかけると、三浦君がクジの様な物を差し出して言った。


「もし、爆食いする奴と同じテーブルになっても、運の悪さを恨めよ。」


すると長谷川君は僕の肩を組んで言った。


「えー。俺、橘と一緒がいいな。あんまりこいつ食わなさそうだし、小動物みたいで可愛いし。」



僕はキヨくんがこっちを見ているのを、なぜか後ろめたく思ってやんわりと肩の手からすり抜けて、先にクジを引いて言った。


「俺は一度にバナナ三本食べる男だよ?あ、4番テーブル。」


後ろで三浦君たちがまだ騒いでいるのを感じながら、僕は自分のテーブルに急いだ。あれ、もしかしてキヨくんも4番?テーブルにはキヨくんがいた。隣の3番テーブルから箕輪君が僕に近寄ってきて言った。


「おはよう。橘と一緒なら俺の食い扶持増えたのに。ははは。」



僕はなぜか皆から少食だと思われているみたいだ。まぁ、確かに普段からお弁当も小さいかもしれない。僕は挨拶を返して肩をすくめた。するとキヨくんが近づいてきて言った。


「おはよう。…橘、髪切ったのか。いいな、それ。」


優しくキヨくんがそう言ってくれて、僕は思わず前髪に指を這わて、にっこり笑って言った。


「おはよう。…委員長、幹事お疲れ様。少し切り過ぎちゃって見慣れないんだけどね。あー、何かお腹空いてきたよ。」




それから直ぐにドヤドヤとクラスメイトたちが集合して、あっという間に肉の争奪戦が展開された。確かに皆の血走った眼差しの肉に対する勢いを見ていると、僕は戦力外かもしれない。


僕が呆気に取られて空っぽの皿を持って突っ立っていると、キヨくんに呼ばれて僕は皿を渡した。丁度良い量が盛られて返された皿を受け取ると、それを見ていたクラスメイトがキヨくんに文句を言っていた。


「委員長、エコ贔屓狡い~。」



僕はハッとして、口の中のお肉を噛むのをやめて顔を上げると、二人の視線が僕に向かっていた。


「橘は遠慮ばっかして、肉が食えないからな。お前はちょっとは遠慮しろ。」


そうキヨくんが言うと、クラスメイトは僕を見つめながら笑った。


「確かに橘に肉食べさせるのって、ちょっと餌付けするのみたいで萌えだな。でも、俺は食べるぜ!」


そう言って、また網の方へ肉を並べ始めた。キヨくんは僕の隣に来て小さな声でボソッと言った。



「餌付けするのは、俺だけの特権だから。な、玲。」





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