文化祭の打ち上げ

第32話 進化系スーパー銭湯へ

「ちょっと、大きめ?でも似合ってる。」


そう母さんに出掛けに言われて、少し気分が上がった今日の格好は、実際僕も悪くないんじゃないかと思っていた。夏の終りに買った、長袖の生成り色のプルオーバーを着て、ボトムスは家にあった、黒いぴたっとしたパンツ。


普段は被らないけど、昨日の夕方、不意に思いついて切った髪が見慣れなくて黒いキャップを被った。サイズが大きかったのか、流行りのデザインなのか、少し大きめのトップスは手の甲まで袖が長い。



少し興奮気味の店員さんが、サイズはそれがぴったりだと太鼓判を押してくれたので、多分こう言うデザインなんだろう。まぁ、貧弱な身体が判りにくくて良いかもしれない。


僕はいつもの黒いシューズを履いて、黒いトートバッグを肩に掛けると、駅に向かった。今日は現地集合なので、余裕を持って出たんだ。キヨくんは準備があるからと先に行くと言っていた。



結局三浦君に手伝えと言われたものの、みんなに声を掛けるだけのお仕事だった。意味が分からないけど、三浦君曰く、僕が誘った方が皆の出席率が上がるとか言われたんだけど。…このクラスのノリなら誰が誘っても来るんじゃないだろうか。


実際文化祭をキッカケに、僕の様な引っ込み思案な生徒が表に出たのが良かったのか、似たような仲間の生徒も顔が明るい。僕が彼らに打ち上げの説明をすると、彼らは一様に僕の肩を叩いて言った。



「橘があんなに顔を赤くして頑張ってたんだ。俺たちが打ち上げに参加するくらい屁でもないよ。それにバーベキューだろう?ただ飯逃す手はないからね?」


そう言ってクラス全員の参加が決まった。僕がメイドの代わりになった田中君の骨折も鎖骨だった様で、銭湯は無理でもバーベキューは参加出来ると言ってくれた。



「流石橘だな。絶対橘が誘えば、みんな来ると思ったんだ。俺が出しゃばると、引くやつもいるからな。橘の様な、小動物系だと、みんな安心して参加すると思ったんだ。」


そう笑いながら言った三浦君の、誉められたのか、貶されたのか分からない言葉を思い出しながら、僕は現地の駅に到着していた。



確か改札を出て、歩いて15分ほどの場所にあるというスーパー銭湯は、巡回バスもあるとの事だったけれど、ちょうど出てしまった後の様だった。僕がスマホでナビをセットして顔を上げたその時、後ろから誰かが声を掛けてきた。


「…橘じゃね?一緒に行こうぜ。」


そこには三浦君たちの陽キャグループの二人、山口君と長谷川君が立っていた。…え。この二人と一緒に行くの?

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