第19話 大ピンチの派遣社員くん

am5:35

pppppppppp...

「ふぁぁぁ、眠い」

昨日出しすぎて、気を失うように寝たから身体がダルダルだぁ。

休みたい!でも借金の為に1日でも多く頑張らないと!

昨日は風呂にも入らず寝てしまったので、頭はフケと油でベトベト。股間は精子でカピカピ。シャワーを浴びる時間はなく、一時期半かかる通勤に、そそくさと用意して車に飛び乗った。

運転したばっかりで暖房が効かず、冷えきった車内。

今日は吐く息も白く、そうとうな寒さ。

小阪は運転しながら人差し指を見る。

「魔法かぁ...」

ろくなことにしか使ってない魔法に、いまいち現実味を感じる事のできない小阪。

「車のハンドル握りながら魔法の願いをかけたら、このスピードの中、車が消えて俺はどこかへ飛ばされんのかなぁ?」

足りない頭で小阪なりに魔法のルールを考える。

「....」

今は信号待ちだから試してみよ。

大丈夫みたいだ。魔法は俺の不利に働く事は無さそうだ。もし、触れて願うだけなら家も失くなる!もっとデカイもの、地球が失くなるよな!やはり規模は俺の手に入れた大切な物が限定されるのかもしれないな。

他にも細かくデータ取らないとだな、剣崎さんは慎重に調査した方がいいって言ってたし、ただ、もう少しスケールのデカイ魔法にならないかなぁ...


車内の暖房が効いてきた。

「やっと暖まってきたぁ」

「うわっ!ちんこ臭っ!」

暖気と共に下半身から、イカを漂白剤に浸けたような匂いが小阪の鼻を刺激する。

「まぁ、今日一日くらい大丈夫だろ」

全然大丈夫な匂いではないが、小阪は大丈夫と判断し今日も気だるそうに会社へ急ぐのであった。


am8:20

朝礼が始まる。

リーダーの宿口が話し始める。

「今年も後1ヶ月とちょっとだから安全に仕事してください。今年は製造が多かったけど来年は2品種無くなるので、派遣社員のみなさんは担当から連絡がいくと思います」


えっ?製造が少なくなるの?派遣切り?

派遣社員って、俺と涼くんだけやん!

仕事出来ない美輪をクビにすればいいやん!


「それでは、業務連絡は以上です。今日も一日宜しくお願いします」


会社の製造が減少することにより、派遣社員の人員を削る、いわばリストラ、派遣切りが言い渡された。

包装の現場は、宿口、伊東、美輪、小阪、涼の5人をシフト制でまわしており、来年からほぼ半分の製造になる為に4人いれば充分な作業内容であった。


am10:00


今日の検品作業は涼とのペア。

「小阪さん」

「なに?」

「俺たちクビっすかね?」

「移動になるんかなぁ?」

「俺ここの仕事楽だから辞めたくないっす」

「たしかに、休憩めちゃくちゃあるもんね」

「辞めたらまたホストやるしかないですよ」

「じゃぁ俺もホストでもしてみようかな」

「カレンちゃんがお客で来てくれますね」

「えっ?来るかな?」

「いやぁ、カレンちゃんの収入じゃ無理っすね」

「涼くんカレンちゃんの仕事知ってるの?」

「この前のランチで聞きました。声優のバイトとなんかどっかの事務みたいですよ!」

「声優さんなの?」

「あー!小阪さん声優好きですもんね」

「だからあんな可愛い声してんだぁ」

「LINEしてみたらいいですよ」

「えっ!なんて?だっ大丈夫かな?」

「俺、ヒナもLINE来るけど、カレンちゃんもLINEくれますよ」

「えー!何話してるの?」

「普通っす、夕飯何?とか休みいつ?とか」

「やっぱり涼くんのこと...」

「カレンちゃんがコボちゃんからLINE来ないって最初LINE来たんですよ!だからLINEした方がいいっすよ」

「そっそうなの?休憩になったらLINEしてみるよ」


am11:45


「あーやっと昼休みだぁ、あっカレンちゃんにLINEしないとな」


ブーブー


小阪のスマホに電話がくる。

「もしもし?」

「小阪くん?担当の鈴木です。今大丈夫ですか?」

「あっはい」

「リーダーから話し聞いたと思いますが、来月から移動になったんで、ロッカーの中の私物の撤去や制服返却と、あとは仕事の引き継ぎがあれば涼くんに引き継いでください」

「えっ?あのぉ移動って俺がですか?」

「はい、一応次の仕事内容とか見学に一緒に行ってもらって、あまり条件よくなければ契約も後少しなんで、更新しないで辞めてもらっても大丈夫です」

「辞める...?」

「えっと、とりあえず再来週のお休みの時に次の仕事場所に見学行くので、空けておいてください」

「再来週って、火曜日休みですけど」

「火曜日なんですね、じゃぁそこで見学行くので、一応スーツでお願いします。詳細はメールで送っておきますので宜しくお願いします」

そう言って、鈴木は電話を切った。


移動って、なんで俺なんだよ!もう5年もここで働いてるのに!なんなんだよ!

辞めてもらっても大丈夫?はぁ?辞めてニートになれって、ふざけんな!

借金もあるし、カレンちゃんともこれからなのに!クソ!クソ!クソ!


とうとう会社から移動または、退職を言い渡された。

これからの事を考えると不安で苛立ちを隠せない。

移動を選ぶか退職を選ぶか、選択肢に弱い優柔不断な小阪であった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る