第11話 ラストソングは剣崎くん

pm11:05


この人が伝説のホストぉ?

ちょっと太ってるけど、たくさん稼いでいいもの食べ過ぎたんかなぁ。

「祐さん全然変わってないっすね」

えっ?そのままの状態でホストしてたの?

髪型もそのまま?前髪だけ少し長い坊主頭で?お世辞にも顔もそれほどよくないしなぁ、カラコンとかじゃなくて、そのメガネ?俺のメガネのが少しおしゃれな感じするなぁ。


カウンターは涼が剣崎の隣に移動したので、入り口から剣崎、涼、2席空いて小阪、カレン、ヒナの順になっている。


「よかったら一緒に飲みませんか?」

「いやぁ女の子いるのに悪いよ」

マスターがマティーニを剣崎の前に出す。

「店が狭いですから、詰めて座っていただければ一緒に飲んでいるのと変わらないですよ」

「たしかに、そうだね」

剣崎は小阪の隣に、涼はヒナの隣に戻る。


カレンが小阪に顔を近づけて耳元で囁く。

「あのぽっちゃりさんが伝説のホストなの?全然ホストに見えないよぉ」

すぐ隣に剣崎いる為、小阪は聞こえちゃうと思い剣崎に視線をむける。剣崎はマティーニを口に運びチビチビ飲んでいる。

「涼くんが言うんだから、本当なんでしょ」

小声で小阪はカレンに言う。

「あのー祐さんでしたっけ?ホストの時って売上げ月にいくらあったんですかぁ?」

小阪の前に少し乗り出してカレンは剣崎に問う。

「君、名前は?」

「あっごめんなさい!カレンです。こっちがコボちゃんでこっちが親友のヒナです」

小阪とヒナがお辞儀をする。

「僕は剣崎祐っていいます。2年ほど前にホストを半年していました。今は小説家として生活してます。」

剣崎は立ち上がると名刺を三人に配った。

「是非作品を見る機会がありましたら宜しくお願いします。」

「ホストから小説家なんだぁ!」

カレンとヒナは名刺を見ながら口々に言う。

カレンは名刺をしまうと、また興味津々に剣崎に話しかける。

「祐さん、話戻って売り上げあったのぉ?」

「月に4000万ほどですかね、涼くんに聞けばわかりますよ。」

「4000万!!!」

涼とマスターを除く三人は口をあんぐりあけて、その金額に驚いた。

「なんかこうお金持ちのマニアな人がいたの?デブ専?騙すのが上手いとか?」


酔ったカレンは失礼な事を連発させる。


「まいったなぁ、僕のお客様は全部初回来たフリーの人だけで、指名はいませんでしたよ」

ここで涼が自慢気に話の主導権を取ってきた。

「祐さんの伝説はまず指名なしのナンバーワンホストってやつなんだよ!」

ヒナが不思議そうな顔をして問う。

「普通は太客っていう常連がいたり、エースっていう超VIPな人が支えてナンバーワンになるんでしょ?」

「ヒナ詳しいな!行ったことあるだろ」

「一回だけねぇ、初回3000円のやつ」

「そうそう、その初回3000円の時にホストが回ってくるでしょ?その時に祐さんは必ず指名されるんだよ!」

「指名あるじゃん!」

「まぁ指名されないと歩合発生しないしね!でも、普通はフリーの時に気に入ったホスト見定めて、次回来店時に指名なんだよ」

「キャバクラの場内指名みたいなの?」

「まぁそんな感じかなぁ、飲みなおしって行って、その場で指名すると、その瞬間から普通料金が発生しちゃうんだよ。」

「それって、よほど惚れたか、知り合いじゃなきゃ無理じゃん」

「そうなんだよ!俺も知り合いだから指名はあったけど、祐さんは初回フリーで必ず飲みなおしになって豪遊って感じなんだよ」

「凄い!」

「しかも、次回は絶対来ない!店としては何度も来てもらってたくさんお金落としてもらいたいんだけど、祐さんのお客様はフリーで使うだけ使って、二度とお店に来ない。元々フリー客から常連って、なかなかいないのが現実だけど、いきなりその日に来てラスソンって客だらけだったんだ」

「ラスソン?」

「今日一番の売り上げホストが最後に歌を披露するってのがあるんだよねぇ!俺は一回しかないけどね」

「いっぱいお金使わないと歌ってもらえないのかぁ」

「そうだね!フリーから飲みなおしでラスソン!1日1人だけで、それを毎日するからたまったもんじゃないよ」

「ラスソン一回あるんでしょ?」

「祐さん辞めてからだから!祐さんいる時はラスソン=祐さんだったからね」


まじまじとみんなが剣崎を見る。

その視線に気づいて剣崎が顔をみんなのほうに向けて、にこりと微笑んだ。

その笑顔を見て、酔ったカレンは大きな声で言う。

「ないわぁー」



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