第2話 午後の派遣社員くん

pm 3:20

「なにやってんだ!」

リーダー宿口の怒声がとぶ。

「なんで先週と同じ間違いを繰り返すの?しかもさっき言ったばかりだよなぁ」

「......」

「失敗はしょうがないとしても同じ事を繰り返すなよ!さっき言われた事をなんでしないの?」

「......」

「どういう気でやってんの?普通言われた事をやるよね?なんでしないの?」

「.........」

間髪いれず説教の嵐。小阪は目をパチクリさせて、右手は手首を折り曲げて指先は下を向け胸くらいの位置で硬直している。

怒声による圧を受けた小阪はただただ立っているのが精一杯だ。

「俺はお前がなんでこういう行動にでたか聞いてんだよ!なんで言われたこともできねぇの?」

「......」

左手まで硬直してきた。

まるで幽霊の様な立ち姿のまま小阪は立ち尽くした。

「もういいや、頭おっかしいんじゃねぇの?こっちは俺がやっておくから休憩行ってくれ」

リーダーの怒っている会話の内容なんて耳に入ってこず、ペコリとお辞儀をしてから呆然と休憩室に向かった。


pm3:33

なんであんなに怒られなきゃいけないんだ...

意味わからんし、スマホを手に取りSNSを開く。

「みんな聞いてくれ、仕事中に急に大声で怒鳴りつけられたorz」


「いきなり怒鳴るとかありえんなぁ」

「パワハラじゃーん」

「辞めちゃえ」


「普通ってなんだよ!すぐに普通はとか普通わかるでしょとか普通普通うるさい」


「わかるわぁ普通の線引き勝手にするなってね」

「普通っていいながら自分は普通じゃないんだよねぇ」

「僕は普通だよー」


「とりあえずまだ仕事途中だから頑張るわ」


「がんば」

「がんばれ」

「負けんなよ」


pm4:05

あと一時間くらいで今日は仕事終わりそうだと時計を眺めていると、リーダーの宿口がまた近寄って来て

「先週頼んで忘れた書類提出してくれた?朝も言ったよね」

「あっ...」

「出してないの?」

駆け足で書類の置いてある机に向かった。

その途中でまた怒声がとぶ

「おーいコボちょっとこい」

「お前話の途中でなんで勝手に行くの?」

「しょ..書類を...」

「ちげぇよ!まずはやってないって言うことの謝罪だろ!ミスして人の顔に泥塗ったことへの謝罪がねぇんだよ!わかる?課長に書類期日先週だったのを今日の朝イチにしてもらって、ちゃんと朝出せって言ったよな?人の話聞いてんの?ちゃんと理解できてる?」


グチグチグチグチと永遠と続く宿口の嫌みったらしい説教に小阪はまた身体が硬直して右手左手が折れ曲がり指先は下を向き、。またしてもお決まりのあのポーズ。

小阪の細い身体が変な角度で硬直し目だけはパチクリしてる。そんな状況を見かねた最年長の伊東さんが割って入る。


「あのね小阪くんはちゃんと人の話聞いたほうがいいよ!わかるよね?僕がついていってあげるから課長に謝罪してこようよ」

「伊東さんがわざわざついていってくれんだから感謝しろよ」

宿口はイライラしながら持ち場に戻って行った。

小阪がここでやっと緊張から解放され口を開く。


「伊東さん...書類まだ出来てません」

「はい?それじゃ出せないねぇ、いっぱい時間あったのに何してたの?」

「.....」

「ちょっとこれはさすがにかばいきれないなぁ」

「すっ...すぐに書いて作ります。」

「ホントに仕事なんだからちゃんとしてよ」

伊東さんは物腰が柔らかくて普段から少しおっとりした感じの人だ、優しい口調で小阪に言った。

「次はないよ」


小阪は普段からあまり人の話が聞けない、人と話すのも苦手なのである。もちろん今回のことも理解したかどうかは小阪しかわからない。


am5:15

「お疲れさまです」

今日は定時だったけど、ちょいミスくらいで怒られてホントに疲れた。

大きなため息をつく。

帰りになにか甘いものでも買って帰ろう。

車に乗ってエンジンをかけ、もう一度ため息をついた。さて帰るか!その時

「ん?えっ?なんだ?」

小阪の右手の人差し指が光った気がした。

「反射?なんかに照らされたのかな?」

しかし指の内部からぼわぁっと光っていた気がする。その光はすぐに消えてしまい、指を立てて見てみてもなんら変化はない。

小阪は疲れたのだろうと思いハンドルを握り直して車を走らせて家路を急いだ。


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