第10話 心理

 ドアが完全に開き、二人の姿があらわになった。

 平静を装い、

「おはよう。ルカ」

 とライは口を開いた。ルカ。彼こそがが大好きな研究者だ。ライとは幼馴染で、同じ年にルームに所属した、所謂の関係である。

「おはようライ。おお、セレンも居るじゃないか。こんな時間に何でここに?」

 深みのある優しい声で彼はそう言った。何か言わなけれ怪しまれると思い、咄嗟に嘘をつく。

「セレンがね。林の朝の空気を吸ってみたいって駄々こねてたから」

「そんなこと!」

 ライはキッとセレンを睨む。彼女は直ぐさま口を噤んだ。

「言い方が悪かったわ。駄々はこねて無いわね。前に私、『朝の空気は気持ちが良い』って彼女に言ったの。そしたら元気一杯に『行きたい!』って目をキラキラ輝かせながら言うものだから」

 これは半分嘘で、半分が本当だった。

 一年前、ライは「朝の空気は気持ちが良い」とセレンに言った事がある。しかしその時は「早起きはめんどくさいから興味無い」とあっさり話題が終了したのだった。

「そうだな。確かに朝の空気は気持ちが良い。だが……」

 バレた。ライは直感でそう理解した。心理学を専攻する彼に嘘をつくなど百年、いや、千年も早いのだ。

 彼女はセレンの手を強く握った。何時でも逃げられるよう。小屋には刃物も保管されているはずだ。いざとなったら殺人だっていとわない。迷わず刺す。セレンとの幸せを過ごす為、ライはそう誓った。

 ルカが小さく息を吸う。

「だが、嘘がバレバレだ。君達は今から何をするつもりだ? 」

「何もしないわよ。ただここを散歩するだけ」

「どこかへ行くのか?」

「まさかそんな事」

「逃げるつもりだろ? どうせ」

 ルカは、その瞳に一切の光も湛えず、冷たく言った。

『口封じ』その言葉が真っ先に浮かんだ。きっと殺人事件はこうして起こるのだろう。ライはそう脳の片隅で考えた。

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琥珀色の少女 花楠彾生 @kananr

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