第9話 予感

「海も行きたいなー」

「海はちょっと遠慮してほしいけど」

「なんで?」

「あなたも一応機械なの。塩水を浴びて一ヶ月待たずして壊れたらどうするの?」

「でも海に行ってみたい!」

「じゃあ海辺のカフェに行きましょう」

 これからの事を和気あいあいと話していると、白いドアに突き当たった。これは、上へ登る為のエレベーターへだ。右側にあるボタンを押すと、ドアが両側に開いた。

「今日は早いね」

「早朝だからね」

 そう軽くやり取りし、二人は箱の中へ入る。

 中は、セレンのいつも居る部屋と同じように、純白を基調とされていた。

 このエレベーターには、三方にドア、もう一方には大きな鏡が取り付けられている。鏡の向かい側のドアの横には、四つの白いボタンが十字に取り付けられていた。ライが四つのうち上にあるボタンを押すと、音も立てずに箱が上がって行く。

「ねぇ、もしこれが途中で止まったらどうなるの?」

「止まってしまう事を考えて作られてはいないわ。このエレベーターは半永久に動き続けられるのよ」

「ルームの人が作ったの?」

「ええ勿論」

 林の地下には広い研究室が二部屋作られていた。今二人が乗るエレベーターは、トンネルと二つの研究室、そして小屋を繋ぐ重要な役目を負っているの。その為、緊急停止ボタンを押さない限り、永久に動き続けるのだ。

「さて、誰も居ないと良いんだけれど」

 数秒経って、ライがそう小さく呟いた。

「こんな時間に誰か居るの?」

「居ない事も無いわ。ここが大好きな研究者がいるからね」

 ライの脳裏には、白衣を着て優しい笑顔を浮かべる男の姿が映っていた。

 数秒後、ポーンと、エレベーターが間抜けな音を立てた。直後、白いドアが滑らかにゆっくりと開いていく。

 二十センチ程ドアが開いた時、隙間から見えた。ライの悪い予感は見事的中。白衣をきっちりと身に纏う、長身の研究者がこちらに訝しげな視線を送っていたのだ。

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