第5話 選択

「セレン。あなたに話しておかなきゃいけない事があるの」

 あれから十分程経って、ライは池の畔にて楽しそうに絵を描く少女に言った。

「なに?」

 セレンはすぐさま手を止めて、隣に座るライに視線を送る。そして、首をコテンッと傾けた。

「うん。じゃあ、本当に簡潔に言うわね。質問は私が『良い』って言うまで禁止」

 ライは厳しい口調でそう言うと、可愛く指でバツを作った。セレンが少し不安そうに小さく頷くのを見て、至って冷静に口を開いた。

「あのね。あと一ヶ月であなたは機能を停止してしまうの」

「えっどう言うこと?」

 案の定、セレンは目を見開いて聞いてきた。そして質問に気付くと、「あっ」と小さく言って口を両手で覆う。そして首をブンブン振って、「続けて?」と言った。

「これはね、記憶は無いと思うけど、あなた自身が言った事なの。あなたが、セレンが感情を持つ前に言った事。勿論確証は無いわ。あの時ちょっとしたエラーでそう言ったのかも知れない。でもね、きっと本当なの。あの時私達が作り上げたのは知能型AIだから。あなたには信じてほしいの。…………さぁ、質問して良いわよ」

 沈黙の帳が降りた。聞こえるのは風に吹かれる木々の騒めきだけ。

「私には知能型AIが入ってるの?」

「ええ。あなたは知能型AIを元に作られたの」

「何で今?」

「本当は言ってはいけなかったの」

「どうして?」

「あなたの為に」

「……嘘?」

 真っ直ぐとその琥珀色の瞳で見つめられたライは、言葉に詰まった。そして、こう言う時に勘が鋭いセレンは本当に人間の様だと思った。

「答えられないわ。今は」

「ふーん。分かった」

 多少の罪悪感を覚え、ライは池の中心を見つめた。

「あなたには選択をしてもらいたい」

 セレンはじっとライのことを見つめる。まるで助けを求める子供の様に。そして、

「なぁに?」

 と無理矢理に明るく言った。

「これからどうするかの選択よ。三つ選択肢を上げるから選んでちょうだい」

「分かった」

「じゃあ、選択肢一。機能停止の一日前にあなたから今までの記憶を全て抜く。そして、無限に生きられる別のアンドロイドの開発に役立てる」

 セレンはライが喋る間、目を逸らさず黙って聞いていた。

「選択肢二。そんな事はせず、あと一ヶ月今までと同じように生活する。今までの記憶も回収はしない。……そして選択肢三。これは私の一押しなんだけれど……」

 ライはセレンの方を向き不敵な笑みを浮かべる。そして悪戯を楽しむ少年の様に言った。

「私と一緒に逃げて、楽しいことをいっぱいする」

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