第4話 古墳

「ねえ、先行かないで!」

「ごめんごめん。ほら、早くおいで」

 手招きをすると、セレンは早足でライの隣に立った。

「すぐそこにあるから。心配しないで」

 セレンが服の裾をギュッと掴むので、ライは優しく言う。

 そして、両手を真っ直ぐ伸ばし、草の間に手を入れる。彼女が腕をいっぱいに広げ草を左右にかき分けると、向こう側に小さな池が姿を表した。

 池を中心に土地は丸く開け、草花は夏の日差しを存分に浴びている。池の右側には、大きな切株が一つ。池とその周りに、生物は一匹も居なかった。

 感嘆の声を上げながら、セレンは池へ駆けて行く。

「池の中へは入らないようにね!気を付けて!」

「はーい!」

 セレンは余程嬉しかったのだろう。池の周りを満面の笑みでグルグルと回っている。途中、池へ指を伸ばしたので、ライは必死に止めた。一応機械なのだ。壊れてしまっては今までの研究が無駄になってしまう。

 しかし、それ以外にも理由はあった。

「この池、落ちたら救い用が無いの。だから本当に、気を付けてね。絶対だよ」

「うん。なんで?」

「この池には底が無いの」

「え゛っ」

 セレンは急に足を止め、池を大きく避けて反対側に居たライの元まで小走りで戻り、手を握り締めた。

 そう。ここは底無しの池、『古墳』である。昨日、ライがセレンの写真を投げた失敗作の池だった。

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