第3話 散歩

 現在。


「セレン。散歩でもどう?」

 翌日。一通りの仕事を終えたライは、セレンの居る純白の部屋へ来ていた。

「行きたい!つまんないもんここ」

 いじけた様子で言うセレンは、ライの手を掴んだ。その手から温もりなど微塵も感じ取る事は出来ない。

「じゃあ行きましょう」

 ライは優しく答えた。

 二人にとって、散歩とは研究所の敷地内を歩く事に過ぎなかった。場所は、人が忙しなく動く研究所内。それなりに広い中庭。そして、研究所から少し離れた所にある林の中など。人目につかない所が殆どだ。

「どこに行きたい?」

「林に行きたいな。セレンが前に話してた池の周りでお絵描きをするの!」

「へー良いじゃない。……さぁ、出発よ!」

「やったー!」

 二人の声は、白い色の無い空間に暖色の光を灯す様。ライはセレンの手を握り直して、足を踏み出した。


 林へは十分程で着いた。研究所から林までは、地下のトンネルで一直線に繋がれている。しかし、今回はセレンが地上を歩きたいと言うので使わなかったら、倍の時間が掛かってしまった。

 林と言えど、ルームの敷地内であるこの場所には、小さな道が敷かれている。それはそうと、ここは広い実験場として扱われているのだ。まあ、実験動物を捕獲する為の場所でもあるが。


 林の入口から三分程歩き、コンクリート造りの長方形の小屋へ着くと、セレンは被っていた大きな麦わら帽子を両手で抱えた。

 セレンは一つ息を吐き言う。

「そう言えば、池ってどこにあるの?」

「ああ、この小屋の西側よ」

 そう言えば、セレンはあそこへ行ったことが無かったのだ。と後になって思い出した。

「……西側?本当に?」

「本当よ」

「だって、あっち草ボーボーだよ」

 セレンはそちら側を指さし言った。彼女の言う通り、小屋の西側には背の高い草が向こう側を隠す程生い茂っている。

 しかしライはそれをまるで気にしない様に、

「まぁ着いてきて!」

 と、こう言う。

「えー。この中を進んでいくの?本当に本当?大丈夫なんだよね」

「もー。本当に本当よ!大丈夫だから!」

 不安がるセレンを背に、ライは草むらに近付いて行く。

 直後、仕方なくセレンも足を踏み出した。

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