第5話 表もあれば裏もある!?ダブル『凛』の日常!!(5)



正直、学校をやめたい気持ちでいっぱいですが、親の命令で入った高校。


今だに相談もできず、前よりは少しましになったので、様子をうかがっているところです。




(とはいえ、あのくそ女に良い顔させとくのは我慢ならない・・・・!)




あまりの無茶振りに、もう一人の自分が出てきそう。





(凛道蓮モードになりそう・・・・!)




もちろん、そんなことはできない。


私がヤンキーで、男装してることは、誰にも言ってない秘密。


だから今日も、自分をなだめつつ考える。




(本当にどうしよう・・・)




深刻な、いじめ問題について。




(こっちは1人で、あっちは全校生徒。みんな渕上に味方して、うその証言とか平気で言い始めるし・・・)




お弁当を鯉の池に投げ込んだのも私じゃない。


ホント、いい加減にしてほしい。





「菅原さん。」




廊下をトボトボと歩いていたら、呼び止められた。





「菅原さん、今、いいかしら?」


「後藤先生。」





声をかけてきたのは、1年生の世界史担当の後藤先生。


私のクラスは受け持ちじゃないので、どんな人かあまり知らないけど・・・・





「体調は大丈夫?お腹や太ももの痛みは良い?」


「は、はい!平気です。」




前に、職員室でダウンした時に助けてくれた優しい人だ。


私の返事にホッとした様子で後藤先生が笑う。




「よかった。ずっと、気になっていたから。」


「ご心配おかけしてすみません。大丈夫です。」


「それならいいけど・・・ねぇ、クラスのお友達とは仲良くしてる?」



(またか。)





渕上の演技に騙され、何人かの先生がこんな感じで聞いてくる。




(渕上にあやまれって、わけわかんないこと言うのよね。)




悪役にされてる私が、いつも怒られる。


悪いことなんてしてない私に、渕上への謝罪を求めてくる教師達。


迷惑かけられてるのはこっちですけど?


丁寧に、真面目に、正直に言っても伝わらない言葉。




(この女も、そのつもりで声をかけてきたんだろうけど・・・!)





「菅原さん、本当は渕上さんにいじめられてるんじゃない?」


「え?」






そう思っていたから、後藤先生の質問に驚いた。


そんな私に、彼女は一瞬顔をしかめてから近付いてきた。




「やっぱりそうなのね・・・?」




小声で、周囲を気にするように聞いてくる。




「菅原さん、先生はあなたの味方よ?お願い、本当のことを教えて。」


「後藤先生・・・・」




相手の言葉に戸惑う。


それは善意の言葉なのか。





―そんなわけないわ、菅原さん。あなたの話と渕上さんの話は合わないわ―


―渕上さん、家柄もしっかりしてるし、間違ったことはしないよ―


―菅原さんの考えすぎよ。先生もついて行くから、渕上さんに謝りましょう?―





虚偽(きょぎ)の言葉なのか。




「先生、私お昼食べてないんです。」


「菅原さん?」


「売店で・・・・買わないと売り切れます。失礼します!」


「あ!菅原さん!」




後藤先生の手を振りほどいて、廊下を走る。





(今のは、彼女の言葉は――――――――――)





本心だったのだろうか?


私の味方と言うのは本当なの?


他の先生みたいに、味方をするふりをして、私に悪口を浴びせたりしないの?


正直に言うべきだった?




(いいえ、簡単に信じちゃダメ。)



今まで、真面目に対応してきて、全部だめになっている。


それを思えば、彼女が救いの糸だったのかわからない。



(様子を見よう。)



敵か味方か。


すぐに決める必要はない。



(用心深くなりすぎて、困ることはないもん。)



だから今は、何も言わない。


相手の出方をうかがえばいい。




(世界史の後藤先生・・・・これからは注意しておこう・・・・)





大きく息はいて立ち止まる。


人気のない第2理科実験室。


幽霊が出るという噂もあって、人はほとんど寄り付かないのだが。






「なんや、ツレない態度やのぉ~」





人間の声が響き、続けざまに第2理科実験室のドアが開く。





「うはははは!あれ、チャンスやったん違う?助けてもろうた方がよかったんちゃうかー?」


「見てたのか、ヤマト?」





呆れながら言えば、顔だけ覗かせた大柄な男子が笑う。





「あの姉ちゃん、わしんとこで世界史教えてる先生やで。面倒見ええらしいーで?」


「何で開いてるんだ?」




彼の質問に答えず、逆に聞いた。


普段はカギがかかっていてあかない第二理科実験室。


午後から、使う学年もいないのに今は開いてる。





「そら、この鍵つこーて、開けたんや。」





自慢げに語る彼の手には、銀色カギがあった。




「共用の物を、私的に持ち歩くのはよくないですよ?」


「うははっは!オリジナルちゃうねん!これは合鍵やで、『総長』―?」



「よけい悪いだろう!『俺』のことも、『総長』と呼ぶな!」







現れた大男に、何度目かになるかわからない注意をする。


これによく知る相手が笑う。






「なんや、おかしいのぅ~!あの最強暴走族の4代目総長である凛道蓮君が、学校では気弱な女の子を演じるとはのぉ~?」


「しかたないでしょう!成り行きなんですから!あと、『僕』が演じてるのは凛道蓮の方だ!」


「うはははは!凛も難儀(なんぎ)やのぉー?伝説の暴走族を引き継いだだけでも、えらいこっちゃなのに、ヤンキーと無縁の真面目っ子が最強総長や!」





そう言って、のん気に笑っているのが、同じ龍星軍メンバーの五十嵐大和(ごじゅうあらし やまと)です。


この世の中で、私が凛道蓮=菅原凛だと知っている唯一の人物。


彼は、私が通う『あゆみが丘学園』に転校してきた1年生で、クラスはG組です。


見た目が2メートルもあって、黒くて長い前髪をカチューシャでとめてます。


常に笑っていて・・・声が大きくて陽気なので、最近では1年生『ラジオ』とあだ名もついてます。




〔★一度しゃべると止まらない★〕





私個人として、ヤマトに対して持っている強い感情は・・・。






(何を考えてるか、わからない・・・・)






その目を見ても、サングラスをしてるのでわからない。


第一印象は変な人、その後は良い奴?ではあったので友達になった。


一応、『凛』の味方ではあるようです。





「これもみんな、凛を『男』として勘違いして覚えとった瑞希はんのおかげやなぁ~?」


「その言い方やめて下さい。瑞希お兄ちゃんに問題があるように、受け取られちゃうじゃないですか?」




仲間と思ってるので、その辺の事情も話してはいる。




「子供時代は、男女の区別がつきにくいんです。瑞希お兄ちゃんが間違えていても、お兄ちゃんのせいじゃないです。」


「はぁ~ホンマ自分、瑞希はんが好きやのぉ~?」


「当然です!あの方・・・あの方は、私が世界で一番愛してるお方ですもの・・・・!」



今だって、会えないけど!


あなたに会えることだけを楽しみに、生きてるようなもの!


いじめだって耐えられる!




〔★やっつける方法を考えろ★〕




「うははは!話は中で聞くから、はよう入り~!」



瑞希お兄ちゃんを思い出していれば、手招きしながらヤマトが言う。




「あ、そうでした。」




それで我に返り、周囲を警戒しながら教室の中に入る。


隠れるようにして、教だんの机の中に座れば、隣にヤマトも座った。


腰を下ろしたところで、何気なく聞いた。





「ねぇ、ヤマト・・・毎日、『僕』とご飯を食べて平気なの?」





凛道蓮モードにも、いろいろありまして。


通常の場合は、主語は『僕』です。


基本、敬語になってます。


ただし、怒ったときや脅す時、戦う時、決め台詞を言う時は、『俺』を使うようにしてます。


大事な話や真面目な話も、『俺』ですが、場合によっては『僕』にします。


あと、瑞希お兄ちゃんに甘える時は~『僕』だねー!




〔★そこは聞いてない★〕





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