第4話 表もあれば裏もある!?ダブル『凛』の日常!!(4)




「凛、この後、飯でも行くか?」


「う、うん・・・・」


「凛と一緒なら、気を使わなくていいからなぁ~」




頭をなでられ、笑いかけられて、微笑み返す。






(別に・・・すべてに、不満があるわけじゃない。)






『だましている』という気持ちはあるけど、現状が嫌だと言うわけでもない。


同性同士として触れ合えるし、可愛がってもらえる。


女の子だったら、こうはならなかった。


告白も・・・・成功したとは限らないから。


それを思えば、悪いと思いつつ、苦労しながら男装してる方がマシ。


なによりも――――――――――





(瑞希お兄ちゃんの側にいるには、男の子じゃなきゃいけなかった。彼が必要としたのは、男の『凛』。)





菅原凛じゃなくて、凛道蓮だったから手に入れられたい場所。


瑞希お兄ちゃんの隣。






「そういえば、凛・・・・学校はどうだ?」


「・・・普通ですよ。」




だから、知られてはいけない。




「普通って・・・ちゃんと友達と仲良くしてるか?テストが始まるんだろう?」


「問題ないです。勉強も、ついていけてます。」




バレないように、心配をかけないように。




「心配しなくても、大丈夫ですよ?」






瑞希お兄ちゃんに心配をかけないように嘘をつく。





「それよりも、瑞希お兄ちゃんの屋台のお手伝いが、ちゃんと出来るか心配です。」





知られたくないから笑ってごまかす。


追及されたくないから、何でもない顔をする。





「・・・安心しろ。ちゃんと教えてやるから。」




そんな私に、少しだけ悲しそうな目をする瑞希お兄ちゃん。


その目は、わかっている。


私が嘘をついていることに気づいてる。


気づいているけど・・・・






「教えてやるから・・・・なんかあれば、言うんだぞ?凛が、言いたくなったら言えよ?」


「・・・・もちろんです。」






私が言う気になるまで待つと・・・・遠まわしで言ってくれてる。





(ごめんね、瑞希お兄ちゃん。)




言うわけがない。


言いたくない。


知られたくない。




(好きな気持ちにも気づいてほしいけど、言えない。)




『今』の菅原凛を知られたくない。


恥ずかしくて、情けないから。


女子高生をしている『凛』のことは言えない。




あなたにとって、恋愛ってどんなもの?




僕にとっての恋愛は『ヒミツ』が多い。







あなたにとって、『学校』はなにをしに行く場所?


私にとって学校は・・・・




「ない。」




カバンに入れたはずのお弁当がありません。





「ぷっぷー!」


「『ない』、だって!」


「菅原じゃなくて、馬鹿原だよなー?」




そんな私を見て、同じクラスの同級生たちが笑っています。




(またあいつらかよ・・・・・!)




それで無反応もよくないので、そっちを見ます。




「うっわ!ばい菌光線来る~」


「ファブレ!ファブレ!」


「クサーい!」




そう言って、離れた場所から私へ向け、ファブリーズを発射している男女。




「おい、やめろよ!」


「ルノアにまで、かかるだろう!ねぇ、ルノア?」


「飽きたから、食堂行こー」




私を馬鹿にしている仲間にそう言うと、前髪を軽く書き上げて立ち上がる女。


彼女は私を見ることなく、たくさんのお友達を引き連れて教室から出ていく。


去り際につぶやく。




「あーあ!やられるってわかってるのに、毎回弁当持ってくるとか、マゾじゃないの?捨てる方の身にもなれよ!」


(ヤッパリこいつか・・・・!)




その言葉でうつむきながら思う。


私の消えたお弁当を捨てたのはこいつらだ。


そして、どこに捨てられたかは、教室にやってきた大人によって知らされる。





「菅原さん、あなたどういうつもりです!?鯉のいる池に、自分のお弁当を投げ込んで?」


「違います、井谷先生。私じゃないです。」


「嘘はやめなさい!目撃者もいます。放課後、生徒指導室に来なさい。」


「嘘じゃないです。なので、放課後、うかがいます。」


「あきれた。本当に良い子ぶるのが上手ですね?」





いやみったらしく言って、担任の先生が出ていく。


その様子を見ていた他のクラスメートが、クスクス笑う。


もう一度うつむけば、カシャーンとシャッター音もした。




「泣いてる顔見えないんですけど、菅原さーん?」


「フッチーもリアル映像期待してんのに~」


「早く学校やめろよ、ブス!」




それで震える体を抑え、貴重品を持って教室から出た。


すぐに後ろから、爆笑が聞こえたけど振り返らない。




「見てよ~A組の地味子がまた1人だよ~」


「ぼっちじゃんか~ブスが暗い顔してると、空気悪くなるよな~」


「A組には悪いけど、教室から出ないでほしい~」




見知らぬ生徒達から、廊下を歩くだけでそう言われる。


何も悪いことはしてないに、嫌な思いをする。



私にとって学校は、我慢する場所なんです。




震える怒りを抑えながら、無表情で歩く。


それで大体の奴が、私が泣くのを我慢してると思う。





「あの子、まだ泣かないのー?」


「さすがに泣てんじゃな~い?」


「泣きながら歩くって、目立ちすぎ~」


「目立ちたがり屋だよね~悲劇のヒロインぶってさ!」




(そんなわけあるか!)





グッとこぶしを握り締める。





(怒るのを我慢してるだけなんだよ、『俺』は!!)





口に出さず、心の中だけで男言葉を使う。


そこにいたのは、もう一人の『僕』。





(ホント、『菅原凛』の時って最悪・・・・!)




龍星軍4代目総長・凛道蓮(りんどうれん)あらため、菅原凛(すがわらりん)、15歳。


あゆみが丘学園1年A組所属の女子高生。


瑞希お兄ちゃんに知られたくない、恥ずかしい『私』である。






「やだ~菅原凛、今日も学校に来てるじゃん!?」


「かけは、あたしの勝ちね~ほら、1000円!」


「明日は、来ない方に500円かけよう~」





わざと、私に聞こえるように言う女子達の前を、無言をつらぬいて通過します。




え~ここまでの流れでお気づきでしょうが、私、いじめられっ子なんです。


入学当時は、こんなことありませんでした。


目立たず、地味で、真面目で、優等生をしてきた私が、どうしてこうなったかと言うと。


学校一のイケメンでクラスメートの飯塚アダムに「宿題うつさせて~」と頼まれ、渋々、お人好しキャラで見せていたらこうなりました。


実はそいつの彼女が、学校で一番逆らっちゃいけない美少女問題児・渕上月乃亜(ふつがみるのあ)だったのです。


渕上は美人だけど、心は汚いです。


ご両親は地元の有力者で、お金もあるのに、なぜかレディースの総長としてヤンキーしてるんですよ。


おかげで、いじめはクラスだけじゃなくて、学年を越えて学校中へと感染しました。


しかも渕上は、持ち前の財力演技力を使って担任の先生をだまし、私がいじめの自作自演をしているという現実まで作ってしまったのです。






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