2月 第5週目
第34話 2/26 大丈夫!?
2023年2月26日
昼
外を見ると、雲に覆われている。
もう少し雲が増えたら雨が降ってきてもおかしくないだろう。
携帯で確認すると、明日の朝くらいから雨が降るらしい。
この予報なら今日の花火は大丈夫だろう。
俺は、花火が始まるまで家にいることにした。
ぼうっとしている時間は嫌いじゃない。
でも、ぼうっとしている中でも全く考えていることが無いというわけではない。
それは、奥川さんの言葉だった。
告白するなら覚悟を決めて?
あれは、どういう意味なのだろうか。
告白をすることに対して応援しているようには思えない。
まあ、奥川さんの行動の意味が分からないのは今に始まったことではない。
ここ最近はずっとこんな感じだった。
あまり深くは気にしないでおこう。
俺は、スマホから音楽を流してこの暇な時間を使うことにした。
時間は午後8時くらいだ。
そろそろ、出ようかな。
俺は、携帯から流れる音楽を止めて行く準備を始めようとした。
俺は、携帯を一度ベッドに置くと、電話が鳴った。
しかも、グループ電話。
何か言い忘れてたことでもあったのかな。
俺は、通話ボタンをタップした。
すると、電話越しでも焦っているのが分かる声で島田さんが話始めた。
<グループ電話>
リンー桜ちゃんが倒れたって‼
今、救急車で病院に運ばれてる‼
えっっ?
救急車で運ばれてる?
この言葉を聞いた瞬間、俺の頭には最悪の事態が過った。
そんな……。
大丈夫なのだろうか……。
確かに、平野さんの体調はもとから良くないけれど、救急車で運ばれたという話は聞いたことがない。
<グループ電話>
優気―どこの病院?
リンー公園の近くにある日赤病院
優気―分かった。すぐ行く
鉄平―俺もすぐに向かう
ASUKA―私も
俺は、財布と携帯をカバンに投げ入れると、そのまま親にも何も言わずに家を出た。
上着を羽織るのを忘れたから外の空気に当てられて凄く冷たい。
でも、そんなことはどうでもいい。
むしろ、熱くなった自分の頭の中を冷やしてくれるようだった。
しばらく俺は、脇目も振らずに走った。
そして、しばらく走っているとポケットから振動を感じた。
見てみると、グループ通話の画面が表示されている。
<グループ通話>
ASUKA―「みんな、今どこらへんにいる?」
優気 ―「もうすぐ、病院に着く」
鉄平 ―「俺は、大通りの橋のところだ。」
ASUKA―「なら、優気はそのまま向かって。お母さんが車を出してくれたから鉄平のほうはそこから私の車に乗せるね」
それだけ言うと、通話はぷつり切られた。
俺は、再び走りだした。
俺は、4人の中で一番に病院に着いたようだ。
どこに行けばいいのか分からず、受付に言うと、405号室に案内された。
ゆっくりと病室を開けると、そこには島田さんのベッドで寝ている平野さんがいた。
「平野さん‼」
俺は、会うことができた喜びで思わず大きな声を出してしまった。
「しっー!」
島田さんは人差し指を自分の唇に当てて静かにするようにとポーズをとった。
「ごめん……」
俺は、小さな声で謝ると、足音をできるだけ立てないようにしてベッドまで近づいた。
平野さんは寝ているようだった。
すうすうと小さな寝息が聞こえる。
「よかったぁぁ」
俺は、平野さんが無事だったことへの安堵から、近くに隣に置いたあったベッドに流れるように座った。
どうやら、最悪の事態は免れたようだ。
「優気は速かったね」
「まあね」
そう言うと、俺は落ち着くために少し大きめに息を吸ってはいた。
「そう言えば、平野さんが倒れたこと、どうして分かったの?」
「家が目の前だからね。救急車の音が近くですると思ったら、桜ちゃんの家の目の前で止まったんだよ」
「なるほどね」
「さすがに、びっくりしたけどね」
「だよね。俺も電話を聞いてびっくりした」
俺たちの会話が一区切りつくと、後ろからガラッと扉が開く音が聞こえた。
「大丈夫!?」
真っ先に叫びながら駆け寄ったのは奥川さんだった。
「しっ!」
俺の時と同じように島田さんが奥川さんに対して静かにするようにとポーズをとった。
奥川さんははっとして両手で自分の口を塞ぐと、早歩きで平野さんのベッドへと近づいて行った。
「桜ちゃん、大丈夫なの?」
奥川さんは限界まで声を抑えて島田さんに聞いた。
「まあ、桜のお母さんが言うには、命に別状はないらしい」
「よかったぁ」
俺と鉄平は、それぞれ肩の力が抜けたような返事をした。
でも、奥川さんだけは完全に安堵しているようには見えなかった。
「でも、しばらく入院が必要らしい」
少し場が冷たくなる。
「入院って、どれくらい?」
俺は、恐る恐る聞いた。
「大体、一か月くらいらしい」
「そっか……」
まあ、一か月安静にして治るなら……。
平野さんの無事を確認して俺たちが少し元気を取り戻していると、ベッドから体が少し動く音が聞こえた。
この場にいる4人が一斉にベッドのほうを見ると、そこには平野さんがゆっくりと体を起こした。
「みんな……」
「「「「大丈夫⁉」」」」
4人の声が一斉に重なった。
さっき俺たちを注意していた島田さんまで一緒になって声を出した。
「みんな……。ありがとう」
平野さんは、ベッドの横に俺たちがいることが意外だったのか、頭を右手で抑えたまま驚いた表情をしていた。
「わざわざありがとうね」
「桜、大丈夫?」
「まあ、何とか」
「よかった」
俺たちが、平野さんが起きたことを喜んでいると、後ろからガラリと扉が開く音が聞こえた。
「あら、凛ちゃん。それに周りの子は桜のお友達?」
40代くらいの夫婦が病室に入ってきた。
「こんにちは」
島田さんが2人に挨拶したのを見て俺たちも軽くお辞儀をした。
「みんな、ありがとうね。わざわざ桜のお見舞いに来てくれて」
「いえ」
「でも、今日は遅いからそろそろ帰った方がいいわよ」
時刻を見ると、9時になっていた。
「そうですね」
俺たちはそれぞれ帰ろうということになった。
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