第26話 2/18 鉄平の優しさと奥川さんのこと
2023年 2月18日 土曜日
昼
俺は、家から5分くらいのところにあるカフェに着いた。
約束の時間までは後5分くらいある。
俺は、鉄平が来る前に先にサンドイッチを注文した。
鉄平は、約束の時間から10分くらい遅れて到着した。
「よう」
「相変わらず、時間通りには来ないな」
「まあな。今日は、猫の世話で忙しかった」
そう言うと、鉄平は悪びれる様子もなく向かい側の椅子へと腰を掛けた。
まあ、いつものことじゃないから気にしないけれど。
「何か頼んだか?」
「サンドイッチだけ」
「じゃあ、俺はコーヒーで」
そう言うと、鉄平は近くの店員の人にコーヒーを持ってくるようにお願いした。
「それじゃあ、勉強でもするか」
鉄平は少し大きめの黒色のバッグから参考書を取り出した。
「ちょっと待て!」
「どうした?」
「今日、何で俺を呼びだしたのか教えてよ!」
「勉強するために決まっているだろ」
「そんなことのためにわざわざ鉄平がカフェに呼ぶわけないことは分かってる!」
俺は、自身満々な表情で言った。
流石に、3年間も一緒に居れば鉄平がどんなキャラなのかくらいは分かっている。
「いいじゃねえか。たまには勉強を2人でしてもいいだろ?」
「それは、良いけど……」
「それに、あと少しで公立受験も控えているだろ」
「確かに……」
「何だかんだで最近、あんまり勉強できていないんじゃないか?」
「それは……」
「色恋を気にすることも良いが、自分の受験が失敗したら元も子もないぞ」
俺は、言い返すことができなかった。
確かに、鉄平の言う通りだからだ。
結局、このまま俺たちは5時間ほどカフェで勉強することになった。
夜
時間は18時にちょうどなったくらいだ。
「そろそろ、俺は塾があるから帰るな」
鉄平のこの一言で勉強会はお開きにすることになった。
俺たちは、荷物をまとめてカフェを出た。
鉄平が通っている塾と俺の家は同じ方向にあるので、このまま一緒に帰る。
「今日はありがとうね」
「何だ、いきなりどうした?」
「だって、最近俺が大変だったことを察してゆっくり勉強をする時間を確保してくれたんだろ?」
「何のことだか」
鉄平はこっちを見ないで鼻で笑いながら答えた。
「まあ、お礼の言葉は素直に受け取っておくことにしよう」
「そうしてくれると嬉しい」
俺は、少し恥ずかしくなって小さく俯きながら答えた。
この後は、そのまま鉄平と他愛もない話をしていた。
そして、信号を渡れば鉄平が通う塾の目の前というところまで着いた。
「それじゃあ、塾のそばまで来たから俺はそろそろ帰ろうかな」
「またな」
鉄平はそう言うと、塾の方へと歩き出した。
俺も帰ろうと踵を返そうとしたが、塾の方へと向かった鉄平が小走りでこっちに向かってきた。
「どうしたの?」
「1つ言い忘れていたことがあってな」
「何?」
「奥川のこと」
「奥川さんのこと?」
俺は、きょとんとした顔をした。
「優気が、奥川さんが何か隠していることがあるかもしれないから分かったら教えて欲しいって言ってただろ」
俺は、はっとしたのと同時に思い出した。
そういえば、鉄平に相談していたんだ。
こいつは、交友関係も広くて頼りになる。
「何か分かったの?」
俺は、少し食い気味に聞いた。
「それが、」
鉄平の顔があまり良くない。
いつもと違って何だかはっきりしないような感じだ。
「どうしたの?」
「実は、俺が調べた限りでは何も分からなかった」
鉄平は、珍しく少し落ち込んだ表情で答えた。
「そっか……」
俺は、少し目線を下げて答えた。
「でも、大丈夫だよ。わざわざ調べてくれてありがとうね。やっぱり友達の秘密なんて勝手に詮索しない方がいいのかもね」
「そうかもな」
俺は、できるだけ明るい声と顔で答えた。
そして、それを伝え終えると鉄平は塾がある方へと再び向かった。
俺は、残りの帰り道を1人で帰ることになった。
鉄平でも分からないことか……。
もしかしたら、昨日のことを話せば何か分かるかもしれない。
でも、それは流石にできない。
昨日のことは絶対に誰にも話をするつもりはない。
たとえそれが、親友であったとしても。
俺は、小さく一息を吸った。
まだ二月の冷たい空気が体の中に入って少し落ち着く。
奥川さんの秘密のことはもう忘れることにしたほうが良いのかもしれない。
きっと知らない方がいいこともあるだろう。
俺は、これ以上奥川さんのことについて詮索しないことを決めた。
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