第25話 2/17 これ以上、聞かないで!
2023年 2月17日 金曜日
昼
昼休みが始まってから20分ほど経っている。
俺は、学校の屋上入り口前にいた。
ここは、普段屋上が解放されていないこともあって半分物置状態になっている。
「よかった。時間通りに来てくれたね」
俺は、奥川さんに呼び出されていた。
「まあね」
「逃げるんじゃないかってちょっと心配したんだけど、必要無かったみたいだね」
「まあ、朝からあんなに真剣なトーンで話があるって言われたからね」
「ちなみに、何の話か分かってる?」
奥川さんはいつもの声で言った。
でも、いつもと違って目は笑っている様子が一切ない。
そして、奥川さんに呼び出された理由には心当たりがある。
「昨日のメッセージ全部見たよね?」
「よく分かったね」
「後で見返したら既読が2になっていたからね。桜ちゃん以外に誰か見たってことはすぐに分かったよ」
やっぱり、既読でばれたか。
「それでも、俺って分かることは無いんじゃない?」
「鉄平と凛はあの時間は塾だからね。すぐに反応できたのは優気しかいないってこと」
「なるほど」
まあ、ここまでは予想が着いていた。
問題はこの後。
奥川さんはどうするのだろう。
「それで、俺はこんなところまで呼び出されてどうすればいいの?」
「分からない?」
奥川さんから少し苛立ちが見える。
「見なかったことにすればいいの?」
「そういうこと」
俺は、小さく息をついた。
奥川さんは苛立ちがさっきよりも大きくなっているように見えた。
「分かった?」
奥川さんは今までにないくらい真剣な表情だ。
「一つ聞いても良いかな?」
「ダメ。昨日のメッセージは見なかったことにする。それだけ」
目が鋭くて怖い。
これ以上、余計なことを言えばただじゃすまないだろう。
でも、ここで引けばさらに謎が深まる気がする。
「お願い。一つだけ質問させて」
俺は、逃げずに正面を向いたまま聞いた。
じゃないと、答えてくれることは無いだろうから。
奥川さんは小さくため息をついた。
「なに?」
決して快諾してくれたようには見えない。
それでも、聞く権利を貰ったからには俺は勇気を出すことにした。
「ねえ、奥川さんは平野さんのことについて俺たちが知らない何かを知っているんじゃない」
一瞬で奥川さんの表情が鬼の形相に変わった。
「うるさい‼」
ドン
俺の耳に勢いよく風を切る音が聞こえた。
真横には腕、正面には奥川さんの顔が見える。
俺が経験した人生で初めての壁ドンは恐ろしいものだった。
「奥川さん……?」
俺は、名前を呼ぶだけで精いっぱいだった。
むしろ、声と表情がいつもと違いすぎて同一人物かどうかも分からないくらいだ。
前髪が目に掛かっていてはっきりとは見えないけれど、明らかに俺を睨んでいる。
「それ以上、聞かないで!」
俺は奥川さんの勢いに圧倒された。
「そんなに言えないことなの?」
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい‼」
奥川さんの声はここら辺一体に響き渡っていた。
「これ以上、何も聞かないで!分かった?」
目の前にある、いつもと別人の奥川さんの態度に俺は動揺した。
「分かった」
俺は、返事をするので精一杯だった。
放課後
結局、昼休みは奥川さんに押し負けるという形になってしまった。
でも、流石にあんな感じになることは全く想定していなかった。
「それじゃあ、今日も予定あるから」
そう言うと、奥川さんはみんなよりも先に帰ってしまった。
「また、どっか行くの?」
呼び止めたのは島田さんだった。
「今日は、休んだ桜の家にプリントを届けに行くだけ」
「桜ちゃん家に行くの?私も行きたい‼」
「バカか。病人の家に2人で押しかけてどうする。奥川に任せておけ」
注意を入れたのは鉄平だった。
「そっかぁ」
島田さんはそう言って自分の席に着いた。
そして、奥川さんは荷物をすぐにまとめて教室を出た。
俺たちは、しばらく3人で課題をして家に帰ることにした。
ちなみに、今日は島田さんと鉄平がじゃんけんで勝ったので、島田さんの家によってから鉄平の家によって俺が帰るというルートになった。
「それじゃあね!」
俺たちは、島田さんを玄関で見送ると、鉄平の家がある方へと歩き出した。
しばらくは2人とも無言のまま歩いていた。
気が付くと鉄平の家まであと少しのところまで来ていた。
何も話さないで帰るのも少しつまらないので、最近思っているどうでもいいことでも聞こう。
「最近、俺が鉄平の家に着いていくことが増えた感じしないか?」
「さあ、どうだかな」
「いや、マジで」
「知るか。俺に聞くな。もっと考えることが他に無いのか?」
「そんなこと言うなって!最近は受験勉強以外にすることがあんまりないんだよ!」
俺は、いつもより無理に笑顔っを作った。
そして、何も悟らせないように少し強めに鉄平の背中を叩いた。
すると、いってと言いながら鉄平は軽く自分の背中を触った。
「どうした?何だか今日はやけに強く叩いてくるな」
「そうかな」
俺は、少し目線を逸らした。
昼休みのことが衝撃的過ぎて、何をするにしても今日はあの体験が頭をよぎる。
そのせで、いつもの力加減ができていなかったのかもしれない。
気が付くと、鉄平の家の目の前だった。
これ以上話していたら、ぼろが出るかもしれない。
それじゃあと言って早く離れようと口を開こうとした。
「明日、ちょっと2人で話をしようぜ」
でも、その前に鉄平が話を始めた。
予想外の言葉だった。
「でも、明日はちょっと予定が……」
俺は、何かあると思って反射的に断りを入れた。
「勉強以外することが無いんだろ?」
鉄平はにやりと笑った。
俺は、少し前に自分は言ったことを思い出す。
そして、同時にしまったと心の中で思った。
けれども、上手い言い訳を思いつかなったので、分かったと返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます