第21話 2/13 バレンタイン前日
2月13日 月曜日 第3週目
朝
「みんな、おはよ!」
奥川さんが勢いよく入ってきた。
俺たちは、島田さん以外はみんな揃っていたので、それぞれに挨拶をした。
今日は、平野さんも朝からいた。
俺は、昨日のメッセージで何とか学校に行く気力が出たけれど、奥川さんの言葉を忘れたわけではない。
けれども、奥川さんに変わった様子は無かった。
「どうした優気!元気が足りないようだけど!」
「そっ、そんなことないよ」
「ほんとー?」
「うん」
「ならよかった!」
奥川さんはそう言い終えると、目の前にあった自分の椅子に座った。
いつもと特に変わった様子はない。
そして、いつものようにどんどんと廊下を走る音が聞こえる。
振り向く前にドアが勢い良くガラッと開いた。
「セーフ‼」
「相変わらずギリギリだな」
「少しは静かに来ようね」
この場にいた島田さん以外が、それぞれにやれやれといった顔をしていた。
そして、直ぐにチャイムと同時に先生が教壇に登る。
放課後
「それじゃあ、この後私たちは明日香ちゃん家でチョコレート作りに行くから」
「それじゃあ」
ということで、今日は男子と女子に分かれることになった。
いつもなら平野さんと一緒に帰ることができなくて残念だと思うところだけど、今回は土曜日の奥川さんの話があってすぐだから、少し安心している自分がいた。
俺と鉄平は、俺がじゃんけんに負けたことで鉄平の家の近くを通る道を使って2人で下校することになった。
「鉄平は昨年、何個チョコ貰った?」
「まあ、4個だったかな」
「それって、いつものメンバー含めて?」
「いや、含めないでだが」
鉄平が勝ち誇った顔でこちらを見ていた。
「それで、優気は何個だったんだ」
「3個……」
「それは、いつものメンバー含めての話だよな」
「何で断定してるんだよ!」
「違うのか?」
「まあ、想像に任せる」
「そうか」
絶対に馬鹿にしている返事の仕方だった。
全く、何でこんなやつがもてるのか分からない。
「今、何でこんなやつがもてるのかって思っただろ」
ぎくっっ
「そういうところを直せば俺くらいの数は貰えると思うぞ」
鉄平はいつもよりさらに余裕そうな表情をしていた。
「はいはい……」
まあ、言っていることは間違えてないな。
「今年は何個貰えるだろうな」
鉄平も俺が言葉に詰まったことを察して話題を変えてくれた。
「まあ、、」
続きを言おうとして言葉に詰まった。
俺は、平野さんからチョコを貰えるのか。
土曜日に奥川さんが、平野さんは俺のことが嫌いって言っていた。
つまり、貰えないという可能性も十分にある。
「どうした?」
鉄平が不思議なものを見る目でこちらを見ていた。
「まあ、心配しなくてもいつものメンバーがくれるだろ」
「そうだね……」
俺は、精一杯に取り繕って笑顔を見せた。
「ん?どうした優気?」
「えっっどうしたってっ?」
思わず、大きめの反応をしてしまった。
これが、鉄平の疑念をさらに深いものにさせたようだ。
「何かあったのか?」
「それは……」
もちろん、言い訳はいくらでもできるかもしれない。
正直、平野さんのことは言わない方がいいのかもしれない。
でも、俺一人で考えるには限界だった。
「実は、平野さんに嫌われているみたいなんだ。どうしたらいいと思う?」
鉄平の顔を見ながら言えなかった。
諦めろって言われた時に立ち直れなさそうな気がして。
「どういうことだ?」
鉄平は心の底から不思議に思っているようだ。
鉄平はいつも周りの人間関係とかは分かっている方だから、きっと何か知っていると思ったのだけど。
「俺にも分からない」
話ながら、いつもの帰り道のはずなのに歩幅が小さくなっている気がする。
「奥川さんが、平野さんは俺のことが嫌いだって言われたんだ」
何とか俺は向き合いたくない事実を口にしたけど、鉄平はさっきよりもさらに頭を悩ませている感じだった。
鉄平にも分からないことなのだろうか。
しばらく沈黙の時間が流れていると、鉄平が右手でがしがしと自分の頭を叩いた。
「この件については、俺も全く見当がつかない」
「そう……」
「まあ、何か分かったら教えてやるよ」
「ありがとう」
俺は、少し俯きながら返事をした。
「まあ、明日はバレンタインだし、そこで何か分かることもあるんじゃないのか?」
「そうかな」
「もし、奥川が言うように平野が優気のことが嫌いなら、チョコレートを渡さないということもあるんじゃないのか?」
「どうだろう。平野さんはみんな渡すから、俺にも仕方なく渡すかもしれないし……」
「なら、これ本命って聞いてみればいいんじゃないのか?」
「できるか‼」
「そうか?」
「ただのやばいやつじゃん‼」
「まあ、本命って聞くのは冗談だとしても、2人きりの時に、最近何か迷惑なことしたかって聞くくらいはしてもいいじゃないのか?」
「そうかな……」
「まあ、やるかやらないかは優気に任せるけどな。悔いが無いように頑張れよ」
そう言うと、鉄平は俺の背中をパンと少し強めに叩く。
俺は、分かったと鉄平の顔を正面に見ながら答えた。
明日が少し怖いな……。
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