第18話 2/11 デート?3 <好きの意味?>
ハンバーガーを食べ終わるのにはそんなに時間はかからなかった。
「この後どうする?」
奥川さんは貰ってきた水族館のパンフレットを見ながら聞いた。
「まあ、魚はほとんど見たよね」
「だよねー」
「あとは何かあったかな」
俺も自分のパンフレットを開いた。
「この水族館、屋上があるらしいよ!」
奥川さんは自分の持っているパンフレットをこちらに向けながら笑顔で身を乗り出してきた。
「行こうよ!」
「いいよ」
俺はそう言うと、2人でハンバーガーのごみを片付けて屋上へと続く階段を上った。
「やっぱり、屋上の景色はきれいだね!」
「そうだね」
確かに屋上の景色は見晴らしがよくてすごくきれいだった。
水族館の屋上ということもあってスペースは思っていたよりも広い。
そして、土曜日だったこともあって家族やカップルで来ている人が7組ほどいる。
時間は16時くらいだ。
もう少ししたら、綺麗な夕日で良い景色なのだろうなと思う。
平野さんとか好きそうだな。
俺は、ふとそんなことを思った。
「優気―?聞いてるー?」
「あっ、うん」
俺は、一瞬ぼぅとして返事が遅れた。
「ちょっと!今、桜ちゃんと一緒に見たかったとか思ったでしょ‼」
奥川さんはどうやら何でも分かるらしい。
「そんなことないよ」
俺は少し奥川さんから目を逸らしながら否定した。
「ほんとにー?」
奥川さんからの疑いは晴れない。
「ほんとだよ」
「ならいいけど」
奥川さんはくるりと回って外の景色を眺めに柵のぎりぎりのところまで行った。
俺は、少し遅れて歩きながら奥川さんの横に立った。
「てっきり、今日の優気は元気ないかと思ってた」
奥川さんは少し残念そうな表情をして言った。
「いきなりどうしたの?」
「昨日、桜ちゃんに会えた?」
「まあ」
「どんな話をしたのか教えてくれる?」
「それは……」
言い始めようとした段階で言葉に詰まった。
どこまで話をするべきなのだろうか。
まあ、昨日の始まりは奥川さんが俺に元気を与えてくれたからだし、何も話しをしないというわけにもいかないだろう。
でも、全てを話すのはさすがにできない。
「まあ、何とか平野さんは元気になったと思うよ。来週からは学校にも行けると思う」
俺は、こんな感じで濁すような答えしかできなかった。
「優気のおかげで?」
「それは、どうかな……」
「違うの?」
「たぶんね」
「じゃあ、桜ちゃんに確かめてもいい?」
奥川さんは俺を覗き込むような形で聞いてきた。
「それはダメ‼」
もちろん、俺はすぐに否定した。
平野さんが言うとは思えないけど、流石に恥ずかしい。
「やっぱり、優気のおかげじゃん」
「それは……」
奥川さんはやっぱり、人との会話が上手い。
これは、3年間でずっと思っていたことだった。
そして、俺は何て言えばいいのか分からなくなって奥川さんとから目を逸らした。
「まあ、桜ちゃんが元気になったならそれでよかった」
これで話は終わりかな。
俺は小さく息をついた。
「ねえ、もう一つあるんだけどいい?」
奥川さんの目は真剣なままだった。
俺は、これ以上聞かれることに心あたりは無かったけど、良いよと言った。
「じゃあ、奥のベンチに行こうよ」
奥川さんはそう言うと、一番奥にある人が周りにほとんど居ないベンチへと向かった。
俺は、奥川さんにつられて行くと、奥川さんは奥の方に座った。
「ねえ、優気は桜ちゃんと水族館に行ったことある?」
俺が座ったのを見ると、いきなり話しかけてきた。
「ないよ」
「そっか」
奥川さんは小さな笑みを浮かべていた。
「それがどうしたの?」
「それじゃあ、優気の初めての水族館デートの相手は私ってことだね」
「まあ、それはそうだけど……」
そんなに嬉しいことか……?
「ねえ、さっきから質問の意図が分からないんだけど」
俺は、奥川さんの横顔を見ながら聞いた。
少し笑っている?
まさか、また何か騙されているのか?
奥川さんならやりかねないよな。
「冗談なら帰るよ」
俺は、そう言ってベンチを立ち上がろうとした。
でも、奥川さんはこの行動をさせてはくれない。
俺の右腕を少し力強くぱしっと掴んだ。
「待って!」
そして、今までにないくらいの真剣で力のこもった声をあげた。
「なに」
奥川さんは、小さく息をすると、覚悟を決めたかのように俺の顔をじっと見つめてきた。
「いきなりどうしたの……?」
俺は、その態度にびっくりして聞いた。
いつもの駄々をこねている様子とは明らかに違う。
「実は、優気に聞いて欲しい話があるの……」
「なに……?」
俺は、少し落ち着きを取り戻して声のトーンを落とした。
「桜ちゃんのこと好き?」
「もちろん」
「どれくらい?」
「どれくらいって……」
俺は、少し答えに困った。
でも、奥川さんの質問は止まらない。
「付き合いたいくらい」
「まあ、」
「結婚したいくらい?」
「まあ、、」
「私よりも……?」
「えっっ?」
質問に対しての反応が遅れる。
でも、奥川さんが止まらい。
この反応を予想していたかのようにすぐに話を続けた。
「私、優気のことが好き。桜ちゃんじゃなくて、私と付き合って欲しい」
俺の脳が一瞬思考を停止する。
奥川さんが言っていることの意味が分からない。
なんの冗談だよ。
本当ならこう思いたかった。
でも、明らかに違う。
いつもの奥川さんの感じではない。
目が真剣だった。
初めて本気で俺のことを見ていてくれる気がする。
「俺は……」
きっと、奥川さんと付き合うと今日みたいに笑いの絶えない毎日になるんだろうな。
休日にはいろいろなところにデートに行って。
夕方にはイルミネーションを見て。
子供ができたら週末には子供と一緒に水族館にでも行きたいな。
俺は、ふとこんなことを思った。
「どうなの?」
確実に奥川さんは俺の気持ちを見て言っている。
少し赤くなっているのもきっと演技ではないことが分かる。
それに今までの経験上、奥川さんは人の気持ちを弄ぶような嘘はつかない。
でも、なんだろう。
この違和感は。
目は真剣でいつもよりうるっとしていて今にも涙が地面に落ちそうだ。
本気で俺のことを考えているからだろう。
でも、この本気で考えているって俺を好きと同じ意味なんだろうか。
そこが引っかかる。
奥川さんとは友達として仲良くしていたけど、俺には好かれる理由がない。
まあ、恋愛ならそんなことはよくあることなのかもしれないけど。
でも、この涙が恋愛の意味でのものとは決して思えなかった。
好きというよりは、心配という感情とでも言うべきだろうか。
今日のデートの誘いといい、最近の奥川さんの行動は何か少しおかしいところがある。
無理に気を使っているとでも言ったらいいのだろうか。
そして、それは俺にだけではない。
いつものメンバーの全員に対してそんな感じだ。
俺は、小さく息をした。
そして、勇気を持って口を開けた。
「ねえ、奥川さん。俺に何か隠し事があるでしょ」
冬の風の音がだんだん強くなっていることが分かる。
風だけではない。
もう来た時とは違って光はほとんどない。
町の明かりの主役は太陽からお月様に代わっていた。
この場はベンチの真横にある水族館の明かりが俺たちを照らしている。
奥川さんの目から一滴、また一滴と綺麗な雫が落ちていく。
まるで、今まで抱え込んでた全てを涙で吐き出しているようだった。
どうやら俺はパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。
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