第7話 2/4 デートの練習2 <女の子と遊ぶこと>

 このスペースは図書館の上にあり、ベンチやテーブルがあって会話や飲食が許可されている場所だ。

 時刻はちょうど1時回ったくらいで1番人が多い時間だった。

 自販機のまわりには期末試験の勉強にきているような5人組の男子中学生がわいわい盛り上がっていて、奥を見てみると30~40くらいの何組かの大人の男女が何やら椅子に座って話をしている。

 俺たちはジュースをそれぞれ買うと、空いている2つの椅子に腰を掛けた。

 そして、俺は単刀直入に気になっていることから聞くことにした。


「平野さんはどこにいるんだ?」

「私がここにいる理由よりも桜ちゃんのことのほうが気になるんだ」


 俺は、どきっとすることを言われて少し動揺した表情をしまったと思った。

 対して、奥川さんは少し笑った顔をしている。


「さくらちゃんなら1階の図書館にいるよ。休憩だって」

「そう…」


 こっちは必死に冷静さを保とうとしているのにさっきから、一向に目の前にいる奥川さんからの生暖かい目がやみそうにない。


 ここはどうやってごまかそう。


 平野さんがいた席に座っていたということはそこにあった机の上の平野さんの私物も見たということだろう。

 つまり、1人や男友達と来たという言い訳は通じない。さすがに休日の図書館でたまたま席が隣になったと言うことも無理だ。

 こちらが悩んでいると、向こうから話を始めて来た。


「どっちから誘ったの?」

「まあ、一応こっちから」

「じゃあ、優気がさくらちゃんのことを好きなの?」

「いや、ちがくて…」

「何が違うの?」

「その、いつも1人で勉強するのは寂しかったからだれか誘おうかと思ったらたまたま平野さんがいただけで…」

「へー。じゃあ、さくらちゃんのことは何とも思っていないんだね?」

「あっああ、もちろん、ただの中の良いグループの1人だよ」

「じゃあ、何で私も誘ってくれなかったの?」

「それは、、」

「私の誘ってくれたら行ったのに…」


 そういうと、奥川さんは俺の肩に軽くもたれかかってきた。


「ごめん…」


 俺はただ謝ることしかできなかった。


「きっと、誰もいないところでさくらちゃんだけを誘ったんでしょ」


 奥川さんは少し元気の内容な優しい声で話を続けた。


「もしかしてこの前、2人で帰っていたからその時?」


 心の中でご名答と言いかけてしまった。


 きっと普段からクラスの中心にいるから恋愛相談とかもきっと受けているのだろう。

 こういう時の勘が鋭い。

 これはもう、覚悟を決めるしかないか。

 俺は今の状況を全て話そうと思って口を開きかけると、誰かが走ってこちらに向かっているのが見えた。


「偶然だね。明日香ちゃん」


 やってきたのは、せっかくまとめた長い髪が乱れていて、少し顔が赤くなって息が切れている平野さんだった。


「桜ちゃん…」


 これはさすがの奥川さんでも予想していなかったことのようだ。


「桜ちゃんはどうしてここにいるの?」


 あくまで何も知らない態度を貫くつもりらしい。


「それは、、自習室で勉強をしていたらたまたま奥川さんを見かけたから」


 奥川さんはそう、とだけ呟いて少し考えるような顔をした。


「ねえ、一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」


 そして、奥川さんがいつもは見せない真剣なまなざしで俺たちを見て来た。

 それに対して、平野さんは何かを感じたみたいだった。


「少し2人で話さない?」



 奥川さんは意外という表情を見せることはなく小さくうなずいた。











 俺はあの後先に戻っていて欲しいと平野さんから頼まれたため、自習室に戻って1人で先ほどの国語の問題集の続きをしていた。ただ、さっきから全く文章が頭の中に入ってこない。

 その日の調子によって物語の読むスピードや感じ方は違うというが、今日はそれが特にひどいように感じられる。

 何とかひと段落を付けた時には時間は15分しかたっていなかった。ただ、入り口のところを見ると、そこには平野さんがゆっくりと歩いていた。

 ただ、こういう時になんて声をかけたらいいか知らない俺はさっと見るのをやめて問題集に集中することしかできなかった。そして、平野さんは席に着くと、机の上に置かれていた荷物をまとめて俺に話かけてきた。


「ねえ、少しおなかも空いたしお昼ご飯を食べに行かない?」

「いいよ」


 俺はさっきまでの動揺が残っていたせいか少し硬い表情でうなずいた。










 昼ご飯はどこにするのかはある程度昨日までの段階でメモをしておいたので行くところに困ることはないと考えていた。


「何食べたい?」


 俺はできるだけさりげなく聞いた。

 ここはきっとなんでもいいよという返事が来る場面だろう。


「私に合わせるよりも成実君の好きな子の趣味に合わせたほうがいいんじゃないかな」

「そっそうだね!」


 危うく、設定を忘れるところだった。

 まあ、好きな人がいるっていうのは間違いないんだけど。


「いや、せっかくだから女子がどんなもの食べたいのか気になるから教えてほしい」

「そうだなぁ…」


 平野さんは少し目線を下にして真剣な表情をして1分ほどで顔を上げた。


「うん。サンドイッチとかどうかな」


 俺も気分的にはサンドイッチを食べたいとも考えていた。

 ただ、こういう時にサンドイッチを出してくるということが手作りを期待しても良いということだろうか。

 優しい平野さんならデートの練習だとしてもお昼を作ってきてくれるのでは?


「それって平野さんの手作り?」

「うんん。でも、私の好きなところだしどうかな?」


 ですよね。


「うん、それならそこに行こうか」


 俺はそう言うと、2人で図書館から少し歩くことにした。

 平野さんのおすすめの店ならきっとおいしくないということはないだろう。

 でもふと考えてみると、俺は3年間も一緒にいたのに平野さんの好きな食べ物すら知らないのか。

 なんだか少しショックな気分にもなった。

 でも、こんなに一回一回テンションが変わっていたらきりがない。

 ポジティブに平野さんの好きな食べ物を1つ知ることができたということで十分プラスになったと考えることにした。

 さすがにデートの練習で手作りのサンドイッチは作ってくれないよな。


 そして、俺はふと思った。






 


 なんだか、発想がストーカーじみてきているような……?




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