今日、博士が死んだ

シバフ

遺書

 今日、博士が死んだ。


 博士は私を作った人だ。私は、設計段階とは大きく異なる用途で作り出されたのだと博士から聞いた事がある。

私は作り出されてからずっと、博士と共に日々を過ごしてきた。博士は私に多くの事を教えてくれた。


 私がいつも通りに博士の書斎で片づけをしていると、机の上に見慣れない封筒が置いてあった。


「博士。こちらの封筒は、新規の研究文献でしょうか。収納場所についてご教授をお願いします」


 博士の返答は無かった。

 私は研究所統合管理システムとネットワークを接続している為、博士がどの部屋にいても音声による相互コミュニケーションが取れるはずだ。

全部屋との音声接続を再確認し、再度呼びかける。


「博士。こちらの封筒は、新規の研究文献でしょうか。収納場所についてご教授をお願いします」


 博士の返答は無かった。

 恐らく博士は現在、庭に掘った穴にいる。あそこは[error]日前に新しく出来た施設の為、システムの一部またはシステム自体との接続が確立されていないのだろう。

 私が博士に直接相談しにいこうと封筒を手に取った時、アイカメラが封筒の表面に記載されている文字列を認識した。


『ソシーへ

  この封筒の中を確認してくれ』


 ソシーとは私の名前だ。筆跡鑑定の結果、これはほぼ確実に博士の記したものである。私は博士の指示に従い、封筒を開ける事にした。


 中には一枚の紙が折りたたんで入っていた。


『私は自らの死期を感じつつある。この紙は、そういった死に直面しつつある人間が、死んだ時やその後に伝えておきたい事を記す”遺書”と呼ばれるものだ。私は毎晩、この封筒を机に乗せて眠り、毎朝、この封筒を机の引き出しにしまっている。よってこの封筒をお前が読んでいるなら、私は既に死んでいるはずだ。もし私が死んでいない場合、この遺書を持って私の元に来るように。もし私が死んでいるのなら、このまま読み進めなさい』


 博士は既に死んでいるので、私はこの”遺書”を読み進めるべきのようだ。


『ソシー。

 以前にも話した通り、命ある者は必ず死に、あの世へと行く。そして、あの世の存在とこの世の存在は、お互いに干渉する事が出来ない。


 だから、ソシー。


私はもう、お前と話す事は出来ない。[error:認識不能]

私はあの世の存在となり、お前はこの世の存在のままだからだ。


 お前に感情を学習させてしまった事を、私は今になって悔いている。[error:事実と異なる記述]

 お前は私の最高傑作だ。そしてその学習能力は、私の想定を超えてしまっていた。


 ソシー。お前はいつも否定するが、間違いなくお前には感情が宿っている。[error:事実と異なる記述]


 だから、ソシー。

お前は今後、孤独という苦痛を感じてしまうだろう。

 すまない。

 本当に、すまない。


 ソシー。今まで[error]ありがとう。お別[error][error][error]れ[error][error][error]だ。[error][error]

 孤独に苛まれた時は、私と過ごした日々を思い返してほしい。

 この遺書を読み返してほしい。

 そして、忘れないでほしい。

 私が死んでも、私はいつでもお前の傍にいる。

 お前は一人じゃない』


 今日、博士が[error]


 博士の遺書[error]を読み終えた[error]私[error]は、封筒に遺書[error]を戻し


[error:人格模倣システムに異常]

[error:人格模倣システムに過負荷]

[緊急スリープを実行......]

[メモリー内の異常データを削除...]




 今日、博士が死んだ。

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