第35話 最凶剣カリュオーン

 魔都が燃えている。

 家も、人も、城も、文化も何もかも。


 転移した俺に突きつけられた現実は過酷なものだった。


 ドラゴン級──いや、それ以上に強大な魔物が雁首揃えて全てを蹂躙している。

 なんだあれは……恐竜か?

 

「……かもしれない」


 いや、それよりも重要なのは現状の打破だ。

 南はアビド。

 北はエルが率いる軍が戦闘中だがどうにも劣勢だ。

 一般的な兵はまるで戦力になっていない。


 レイスが勝ち誇っていた通り、明らかに戦力が不足している。


「くそっ、アリアは──」


 再び転移し、今度こそ謁見の間に飛ぶ。


 参じた時には既に戦いが始まっていた。


 アリアが大きな鎌を用いて相手取っているのは、四体の人型魔物。


 全身を覆い尽くす目は、まさしく異形。

 両腕は剣のような形状をしていて、振るうたびに鋭利な風が飛び地面が裂け調度品が破壊される。


「……」


 アレらの姿を見せられて、数秒の間足が止まってしまった。


「知るかよ」


 躊躇わずカリュオーンを同化率50で使用。

 四体の内、一体の背後から襲い掛かり、異形と化した右腕で真っ二つに叩き斬る。


 開かれた視界の先でアリアと目が合い、俺は心のままに叫ぶ。


「アリア!」


 この声にしかし、アリアは反応しなかった。

 それは何故か。

 理由は単純、そんな余裕はないからだ。


 かち割ったはずの魔物が逆再生で復活し、俺を無視してアリアの方へ斬撃を飛ばす。


「ちぃっ!」


 無視すんじゃねえ。


 気合いで割り込んで弾き飛ばし、再びそいつにカリュオーンを叩きつける。

 今度は右腕を切り落としたが……これも無駄、再生する。

 だが流石に俺を敵として認識したようで、俺に目鼻口のない顔を向け、全身から無数の黒い棘を飛ばしてくる。


 今からは避けられない。

 あっという間に『無限鎧インフィニティ・アーマー』を突破されて『命の盾ライフセーバー・シールド』が発動してしまう。


 謁見の間、その入り口まで飛ばされる。


「ふぅ〜……」


 強い。

 このままだとかなり厳しいか。


 ならば、同化率70。

 適合し損ねたお前たちに、本当の魔剣士の力を教えてやる。


 そう覚悟した時、戦局に変化が生じる。


魔王の死鎌デモンズ・デス・サイス


 アリアが持つ鎌が禍々しい瘴気を纏ったのだ。


 あれはバトルが第2フェーズに移行した時に彼女が使う攻撃態勢の技。

 防御貫通、回復不可の一撃だ。


『グルゥァアア!!!!』


 俺と交戦していた魔物もドタドタとアリアの方へ駆け出す。

 死を恐れていないのか、それとも知能が無いだけなのか。

 

 阿呆みたいに飛び込んでいった四体の獣は、アリアの円舞で微塵に斬り刻まれる。

 黒いヘドロのようなものが奴らの残骸。

 未だ流動的にひくひくと動いていて、復活の兆しを見せている。


「焼き払った方が良さそうかな」


 アリアが炎魔法を使う──その瞬間、転移魔法の予兆を察知する。


「シド!」

「分かってる!」


 上空に転移してきたアイツ──レイスに向かって斬りかかる。


 しかし、これはさっきのヘドロが壁になることによって防がれてしまう。


「……なんで君が。ローズはどうした!?」

「戻って確かめてみたらどうだ?」


 ギリっと奥歯を軋ませて、ヘドロの向こうのレイスが片手を前に出す。


「ああ、分かった。君らを速攻で殺して行くとするよ!」

「──!?」


 レイスが叫ぶと地上全てのヘドロが一箇所に集中してゆく。

 

 この世の憎悪を煮詰めたような黒々とした物質はやがて、一つの形を成す。


「カリュオーンの全てを知っている君ならば、コイツが何なのか理解できるはずだ」


 全て──ああ、俺は確かにカリュオーンの設定ならば把握している。


 666の犠牲者を出した魔剣。

 ほとんどの装備者は同化率60を越えたあたりで身を滅ぼし朽ち果てて灰となるが、適正の高い稀有な者はここを突破する。


 同化率100。


 ここに辿り着いた者は速やかに『生物』としての死を迎え、カリュオーンの邪悪な意志のみを反映する異形へと成り果てるのだ。

 もしかしたら……歴史上最も適正の高い俺ですらも同じ末路を辿るかもしれない。


 先の四体は、その可能性の体現者だ。


 そして──未来は一つとは限らない。

 レイスが装備した黒刀がそうだ。


 あれぞまさしく、成れ果ての名は──


「カリュオーン装備者はいずれ自らもとなる。ウシク、決着が付いているというのはこういうことだ。カリュオーン四対を束ねた僕に君は愚か魔王すらも敵わない!」


 カリュオーンの源流なんてこの世のどこにも存在せず、俺の持つカリュオーンも実際は成れ果てに過ぎない。

 負の連鎖が世界にいくつもの最強最悪の魔剣を産み出し、激動の時代の中で封印され世界に一本だけ残された──ように見えていた。

 おそらくは王国地下……何処かに封印されていたのだろう。

 レイスはそれを掘り起こしたのだ。

 

 あの形態は同化率70以上だが、同化している様子はまるでない。

 おそらくは出力が俺のカリュオーンとは次元が違うので、鞘に納めた状態に等しくともノーリスクであれだけの力を発揮できるのだ。

 それならば適正が無いレイスが装備できるのも頷ける。


「アリア……行けるか?」

「もちろん♪」

「心強いな」


 俺が幾重もの防御魔法を。

 アリアが配下を強化する能力を。


 これらを施したと同時に、謁見の間両サイドの壁が崩れ巨大な魔物が侵入してくる──決戦の火蓋が切って落とされたのだ。


「同化率80」


 レイス。

 お前の秘密、その全てを解き明かしてやる。

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