第32話 コウモリ野郎
暗転した望遠晶を叩く。
『っ、エル!』
応答はない。
「……バカな」
何でもいい、何か反応を──
「──────っくそ」
ちらちらと業火が望遠晶に映り込む。
これは……?
次の瞬間、暗闇が縦に割れて激しく映像が揺れる。
視線の先には眼光鋭くこちらを睨み付けるレイス。
「脱出……したのか。はは……っ」
何を焦っているんだ俺は……。
返事がなくとも通信が繋がっている時点でエルは生きているというのに、くそ、過敏になり過ぎだ。
『総司令殿ッ、案ずるな。魔物に呑み込まれただけだ』
『……異常事態だがな、それ』
レイスが魔物を使役したという紛れもない証拠だ。
前例の無い事態は尚も進行する。
「流石に強いね、でも──」
彼がすり潰すように両掌を合わせる。
するとエルの両サイドの大地に溜まっていた雨が一斉に魔物と化し、物量で襲いかかってくる。
「ッ、これしき!!」
エルの炎が火力を増す。
天を焦がさんと火柱が立ち昇り、彼女を中心として一気に魔物を天に還す。
そう、
──エルの炎を消化するかのごとく、雨と魔物が降り注ぐ。
「ぅ、がぁああああああ!!!!!!」
もはやエルにレイスの相手をする余裕はない。
無限の牢獄に囚われ、ひたすら魔物を殺すのみ。
「……
勝負は決した。
そう言わんばかりにレイスは剣を拾い鞘に納め、虚空に問いかける。
「これが僕に与えられた力の一端だ。この世界において唯一絶対の支配的な力」
彼は完全に俺を認識し語りかけている。
その視線が真っ直ぐ俺を捉えている。
「確実に魔王を殺せる。君の力を借りる必要すら、本当はない」
スパイである俺の力が必要ないと、レイスはそう言っている。
確かにそれは間違っちゃいない。
アリアを殺すための手段が他にあるのなら、固執することもないからな。
「でもまあ、そっちの方が確実だから、その気があるなら手伝って欲しいんだけど……どうかな?」
…………この男は。
「……さて、それはそれとして今から彼女は死ぬよ。本来は僕に敗れるはずないのに」
俺と同じだ。
「君のやり方は中途半端だ。全てを知っているのに大胆に動かない。リムちゃんとのアレ、何さマジで。もしかして魔族と人族、両方を救おうなんて考えちゃったのかな」
レイスを騙る何者かは再び剣を抜き、光の魔力を刀身に纏わせる。
これを受けて俺は副官に現場を預ける指示を出す。
「シナリオの破壊ってのは、こうやるのさ」
カリュオーンを抜き、転移魔法を行使する。
異空間の中、剣を振るい──世界が切り替わる瞬間、白と黒の光が爆ぜた。
周囲の雨が弾け飛び、何もない静かな世界でレイスと鍔迫り合う。
互いの息が掛かるほどの至近距離で視線をぶつけ合い、ここから数度剣を交わす。
上段、中段、下段と確かめるようにして剣をぶつけ、反発するようにして互いに距離をとる。
一瞬の弛緩。
これを破ったのは、レイスの嘲笑だった。
「初めまして、かな。コウモリ野郎」
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