第31話 喰らうもの
絶え間なく黒の雨と魔物が降り注ぐ西の最前線に辿り着く。
プリシラの懸命な転移魔法が無ければ5万の兵は幾分か数をすり減らしていたことだろう。
アビドとエルが天より
『狼煙はいらん。アビド』
「任せろ!」
既に現場の魔族は皆殺しにされている。
なら、アビドを使うのに躊躇は必要ない。
「ビッグバン・ソォーーーーッド!!!!!!!」
鉄鬼の大剣が20メートルほどまで伸び、大地ごと人族の軍勢を薙ぎ払う。
奴の前に数は関係ない。
何百万人が隊列を成していようと塵も同然。
冗談みたいに人が舞い上がり、血と臓腑が魔物と共に花を咲かす。
これが挨拶代わり。
軍団長クラスの強者だと認識したのか、奥に控えていた聖騎士が続々と前に出てくる。
だが残念、使い捨ての聖騎士程度じゃアビドは止められん。
「ハァっハー! 殺しやすいようしゃんと並べーい!!!」
皮肉なことに、俺は誰よりも人族側の戦力を知っている。
これもスパイ
そしてレイスも……ストップをかけてくることはない。
あくまでも作戦の範疇というわけだ。
ならば、
『エル』
通信越しに世界最強の騎士、チャリオット・エル・ドラゴンロード・ジュニアを動かす。
「活路は拓かれた! 者ども! 私に続け!!」
聖騎士より練度は低いが、騎士系の魔族で構成された軍を鼓舞。
「聖騎士団長の首を魔王陛下に捧げるぞ!!」
前方を走るアビドが退避すると、レイスに至る道筋がはっきりと見えた。
彼の周りの聖騎士は流石に強者揃いだうが、エル直属の精鋭部隊もまた同じ。障害にはならない。
原作通り──ロケーションは違えどレイスはエルとの一騎討ちの末、敗れ死ぬ。
作戦遂行上でのアクシデントだ。
「さあ、どう出る?」
俺は西の最前線へ行軍する傍ら魔物を捕縛しながら望遠晶ごしに戦況を視察する。
紅蓮の炎を纏い、大地を溶かしながら接敵するエル。
これにレイスは光を纏った剣を抜き放ち対峙する。
「チャリオット・エル・ドラゴンロード・ジュニア──いざ」
赤の軌跡を描き振るわれる剣。
雨のことごとくを蒸発させ、受け止めたレイスを軽々吹き飛ばす。
すかさずエルは距離を詰め猛追。
レイスは後退しながら五月雨に凌ぐ。
「あはっ、やっば」
飄々とした声を漏らしつつ、消える。
転移魔法だ、これは彼の魔法じゃない。
側近の聖騎士の魔法だ。
プリシラを凌駕する術者──というのはそいつのこと。
たとえ高速戦闘中だろうと正確無比な魔法行使ができる。
「ちぃっ」
背後からの強襲。
しゃがみ込み躱したエルの赤い髪が数本斬れて舞う。
「ウッソ、これ躱すのかい!?」
「くだらん小細工だ」
立ち上がりざまに一閃。
ギリギリ回避したはずのレイスだったが、超高熱により攻撃範囲が広い──不可視の斬撃で胸のあたりに熱傷を負ってしまう。
「あっっっつ??」
エルは邪魔を警戒しつつ好機を掴まんと口から炎弾を吐き出す。
1、2、3……いや、それ以上。
ドラゴンの名を背負う所以を存分に見せつける攻撃を、レイスはあからさまに驚いた表情を浮かべながら前方に障壁を張って受け流す。
──背後がガラ空きだ。
「覚悟!」
大地を吹き飛ばし、瞬間的にレイスの背に回り込むエル。
絶死のタイミング。
レイスは柄から手を離し、祈る。
『喰らえ』
その刹那。
エルの足元が大穴と化す。
それは、巨大な口。
剣のような歯が聳え立つ口内へエルの身体は引き摺り込まれて……映像が黒く塗り潰された。
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