第11話 分岐点の意味
退くものか。
殺せるものなら殺してみろ。
この境界線、ぎりぎり魔力刃が届かないこともないところだが……矛がブレているぞ?
『なんでっ、当たらないの??』
きみに被せたブランケットにはたっっぷりと、魔封じの聖水が塗り込んである。
同じことをすれば魔王軍団長クラスでも一切の魔法が使えなくなるだろう。
だが、そんな強力な聖水を全身に染み込ませた状態でも、魔力刃の精度が落ちるくらいで済むのは流石というほかない。
「さぁ……なんでだろうな?」
『──っ、もう怒りました! 死んでください!! もういいです!!!』
死ねだの怒りましただの……まるで小学生の癇癪だな。
もう少し、足りないか。
防御魔法を張り巡らせて、
『ああッッ、また!?!?』
無限に等しい刃の葬列なれど精度が低すぎて半分くらいは俺に向かって飛んでこない。
だからまた、今度はさらに簡単に少女のもとへと辿り着く。
「次は……水かな」
聖水使っててこれか、調整ミスにも程があるだろ。
──次。
「水は嫌いか……じゃあ、スープなんてのは」
戻される。
「そうか、いきなりはキツイよな。重湯で、」
戻される。
「もしかして見られながら食べるのが恥ずかしい? なら長持ちするパ」
戻される。
「とりあえず服とかも置いとくよ」
戻される。
さあ、次は──
『やめて……ください、これ以上は……』
刃が、止まる。
俺も空間の中心で踏みとどまる。
『あなた、何者なんですか? こんな化け物のわたしを構って……何が、何が目的なんですか!?』
「……べつに、きみがこんなところで独りでいるのを見て助けたくなっただけだよ」
『はい?』
みしみしと空間が軋む。
それはまるで、少女の感情に呼応しているようだった。
『あぁ……わかりました。かわいそうな女の子を見て、助けたくなっちゃった正義のヒーローさんですね。痛い人』
「……痛い? それを言うなら、」
酷い、だろ。
アリアを救うために今、俺は悲劇の少女を籠絡しようとしている。
酷く、打算的だ。
最優先はあくまでもアリア。
裏ボスが仲間になるルートがあるのだ。
少女の心を融解して仲間になる道。
俺はそれを知っていて最短距離を辿ろうとしている。
リアルな世界でゲームのような攻略方法……これを酷い云わず何と表現すればいい?
「……それはいいか。だが、痛い人と思ってもらって結構、何も気にしない。何故なら俺はきみを──リムを本気で助けようと思っているからだ。何と思われようとも恥ずべきことじゃない」
『…………ほんとう、ほんとに本当ですか?』
「ああ」
重々しく頷く。
すると、何やらリムはしどろもどろになりながら、言葉を絞り出す。
『じ、じゃぁ。そこまで言うなら』
奥の方で詰まらせるようにしながら、
『…………ぱぱ、に。なってくれませんか?』
来た。
来てしまった。
二択の選択肢。
イエス──生存。
ノー──死亡。
実質一択の分岐点が。
「……な、んだ。そんなことか」
若干声を上擦らせながらリムに近付いてゆき──カリュオーンで極太の鎖を断ち切る。
糸が切れたように倒れてくるリムを膝を曲げてふわりと受け止める。
「これが答えだ」
魔力がぎっしり詰まっているのかやたらと重い少女に思いを馳せるような
冷や汗が……止まらん。
スパイたる俺の鋼の精神が硝子のようだ。
笑えよ俺。
処理落ちみたいにカクついていてもいいから、笑ってみせろ。
『ぃ、やったァ!! よろしくお願いしますね!! ぱぱ!!!』
………………アリアにバレたらゲームオーバーかもな。
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兄か父か。
カオスな方にしました。
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