第4話 RPGゲームでよくいる理不尽エンカウントの強敵
端的に言えば魔族領の大地はクソである。
魔素を多く含むせいで必死で育てた農作物もダメになる上、広大な領土の半分以上が砂漠なので、イカれた故郷を脱するため他の街に移動するのも容易ではない。
そんな中、魔王が統治する『魔王都ヴァルハラ』はまさにオアシスだ。
天候は優秀な魔法使いによって操作できるし、技術者だって多く住んでいるのでインフラも整備されている。
こうして歩いていると、豊かな土壌をガンガン消費して成り立っている人族の国と大差ない街並みが広がっているのがよく分かる。
「週一くらいでこっそり歩いてるんだけど……やっぱ凄いでしょ。都って感じするでしょ」
「ああ、多分人間の国にも劣らないと思う」
「あはっ、見たことない癖に適当なこと言っちゃダメだぞ〜。シドは村出身でしょ?」
左横を歩くアリアが俺の頬をツンツンしてくるやめてくれ心臓が弾け飛びそうだ。
腑抜けたツラをプリシラに見られでもしたら揶揄われるのは目に見えてるので、同行拒否して本当によかった。
「そう、なんだが。想像だよっ、想像。ほら、魔族領とは真逆の環境だろ?」
「おおっ? ムキになってどうしたどうしたぁ? まぁ、言いたいことは分かるわ。父さまも、爺さまも、あの土地が欲しくて憧れて皆に供給したくて戦ってきたんだし」
「……供給。奪うってことだよな」
「そうだよ。もちろん、征服者としての義務は果たすけど」
「義務?」
「へへっ。世界平和、を目指すの」
照れ隠しのように頬を赤らめて可愛らしく言うアリア。
本当にこの人は強いな。
両陣営に戦死者が出まくってる時点で平和なんて、常人なら口が裂けても言えないのに……やり遂げる意志があるんだろうな。
この強さこそが、俺が惹かれた理由の一つでもあるのだが。
「──おっ、これは魔王陛下と総司令ではありませんか! ほら、ベニスも挨拶しなさい」
「ま、アリア様こんにちは! あえてこうえい、です!!」
「レイモンドさん。お久しぶりですね、お子さんも大きくなっちゃって……かわいいですねぇ」
白昼堂々街中を歩いているわけなので、当然注目される。
こうして年配の方に立場関係なく敬意を持って接するところも。流石としかいいようがない。
俺はただ、アリアが話しているのを微笑ましく眺めているだけでいい。
「こうして子どもが安心して暮らせているのも、魔王陛下のお陰です。私たちのような爺は、本当に感謝しておりますよ」
「そう言ってくださると頑張れます! ご近所の方々にも、皆さんの応援あってこその奮闘であることを、お伝えください」
「おおっ、もちろんですとも! そちらも総司令、シド様にも皆敬意を持っておりますぞ」
「……」
お孫さんと共に頭を下げて礼をしてきたので、俺も手を挙げて返す。
そっけなくなってしまったのは照れくさいからだ。
おいアリア、ニヤけ面で脇腹を小突いてくるな。
その手で触れられると、この身体は喜びで震えてしまうんだよ。
「ふふっ、おもしろ。ささ、レイモンドさん。天気も悪くなってきてしまいましたし、そろそろ帰っちゃってくださいな」
「天気……? よく分かりませんが魔王陛下の言うことです、ここいらで失礼させていただきます。ベニス、帰るよ」
「え〜、もう帰っちゃうのぉ。もうちょっとアリアさまと話したいぃ!!」
まったく、子どもは我儘だな。
だがその気持ち、めちゃくちゃ分かるぞ。
「だーめ、ベニスくん。魔王命令聞けないのかなぁ」
留まろうとするお孫さんに目線を合わせるアリア。
「魔王、命令?」
「私からのお願いってこと」
「ん〜、聞く!」
「かぁわいい。ありがと〜!!」
むぎゅっとお孫さん抱きしめてノックアウトすると、ヘロヘロになった状態で爺さんに返す。
「はは、さすが魔王陛下。子どもだろうと容赦ないですね」
「まぁ、はい。ちょっと時間がありませんので……既に配下にも封鎖命令を出しています」
「はて……封鎖?」
何のことやらと爺さんは辺りを見渡して青褪めると孫を抱きかかえる。
「……い、急いで帰ります」
「そうしてくださいな」
穏やかで和やかなふれあいタイムはもうおしまい。
ここ、噴水広場は──本来ならば人が沢山集まっていて、それだけ多くのふれあいが出来る筈だった。
だが今はどうだ?
広場への侵入を拒むようにして兵が配置されている。
理由は──
「魔雨《サモン・スコール》が来るわ」
急速に天を覆い始めた黒い雲。
そこからポツリポツリと垂れるように落ちてくる黒い雫。
これは魔雨《サモン・スコール》──魔物を下ろす雨、制御できない天災だ。
服汚れるし洗浄も大変だ。
拓けた空間に不自然に降り注ぐものだから、この広場以外は完全な晴れ模様なのも異様で悍ましい。
「いつから分かっていた?」
「ついさっきよ。観測班から連絡が入ったの」
話している間にも雨は降る。
やがて黒い液体は一つの形を成してゆき──黒々としたドラゴンとなった。
「最悪だな」
「ね。こればかりは防げないからどうしようもないわ。人間領の何処か……山脈とかで寿命とか迎えたんじゃないかな」
この世界は二分されている。
魔族領と人族領。
互いの領で死んだ魔物は空へと還る。
海と雲の関係と同じだ。
絶えず世界を循環続けている。
今回は
そう、たまたま──って言いたいところなんだけど、こいつ見たことあるなぁ。
ゲームでも似たような時期で出てきた気がする。
そう、あの時は勇者を操作していた頃に相対したが。
RPGゲームでよくある急に出てくる、『二、三回死ぬ前提に設定されてるだろってくらい強い敵』みたいな感じ出てきたんだっけ。
タイムアタックとかに手を出す前は、攻略本片手に戦っていた記憶があるな。
アルフロで発生した全バトルの中でも中々理不尽かつ突然な戦闘だったので、考察班が騒いでいたが……なるほどね、ここで魔王軍が討伐したからドッチボールみたいな感じで投げ付けられていたってわけか。
「すげえスッキリしたわ」
「え?」
「いや、何でもない。とりあえず──」
とりあえず勇者にドラゴン投げるよーって連絡を──あぁ、無理か。
戦闘被害が出ないように既に空間が遮断されている。
そういえば
まあいい。
倒さないことには俺たちが普通に死ぬし、遠慮なく行かせてもらおう。
「──俺が前衛で行きます。陛下」
ただの黒い剣だが、魔力を通すと──九十九の瞳が刀身に出現し、漆黒の稲妻を纏い出す。
いつ見ても良い感じに気色悪くて雰囲気のある呪われた愛剣だ。
「ふふ──っ、いつぶりかしら。一緒に戦うの」
後衛のアリアは身の丈よりも大きな赤い大鎌を呼び出すと、軽く振り風を巻き起こしてドラゴンを牽制する。
いや、クソかっこいい。
大鎌使いの美少女が最高なんだよなぁ。
おっといけない。
今はただ、敵に集中しなくては。
「でも、魔王命令──フォーメーションなんていらない。競争です」
「仰せのままに」
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次回で第一章終わりです。
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