2-5-4.語の効果操作

📖この節では、次の項目について説明する。

  【しゅう

   🖈日本語における修辞の例

   🖈修辞での留意点

   🖈係り結びの位置づけ



      †



📕【しゅう

 〈語を巧みに用いて言葉を効果的に表現すること〉の意。


 言葉の影響力を増す「れん」を語で表現する手法を指し、ゆえに多くの手法は言語に依存する。


   📍日本語における修辞の例


 日本語においては一般に、次のようなものが有るとされる。


  • :対象を直接指さず別のもので代理しておもしろを出すもの

   〝月光→あんびゃく〟〝国会→永田町〟など


  • ちょう:程度を大きく言って強調するもの

   〝今日は仕事で死んだ〟〝生理的に無理〟など


  • えん:短くて済む本題を長く説明して強調するもの

   〝この料理は「ほっぺたが落ちるほど」美味おいしい〟など


  • たい:様子や音声を言語化しておもしろを出すもの

   〝もふもふ〟〝にゃーん〟など


  • じん:人でない物を人であるかように描写しておもしろを出すもの

   〝恋破れた私を夕立ちが優しくなぐさめる〟〝勝手な願い事ばかりじゃ流れ星だって落ちるのがいやになる〟など


  • たいげんめ:体言を文末に置いて独特のいんを与えるもの

   〝身に染みるあなたの優しさ〟〝無頼なり宮本武蔵〟など


  • とう:文法上での一般的な記述順を逆転させて強調するもの

   〝そのこぶしふるえば泣きを見る事になるぞ! 主におれが〟など


  • てんよう:同じ事実についてとらえ方を変えて強調するもの

   〝人はいつも「ことばだまされる」→人はいつも「ことばだます」〟〝日本の「みなさん」、お元気ですか→日本の「あなた」、お元気ですか〟など


  • たいしょう:あるじょじゅつにその対照的な例を付け加えて強調するもの

   〝あいつは「自分には甘いくせに」他人には厳しい〟など


  • はん:見込みの薄い推定や事実に反する事を述べて強調するもの

   〝こんな事ってある?〟〝偉くなったものだ〟など


  • はんぷく:同一または同様の語を繰り返して語の意やしつようさを強調するもの

   〝泣く泣く〟〝力こそパワー〟〝愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル愛シテル〟など


  • おういん:同様の音を繰り返して調子を強調するもの

   〝やたらめったら〟〝いとしさと切なさといとしげさと〟など


  • へいこう:一定の類型でいくつかの事柄を列挙して調子を強調するもの

   〝うみせんやません〟〝春はあけぼの、夏は夜〟〝彼がコケた。彼女もコケた。ねこもコケたし企画もコケた〟〝世とは無情なものだ→(なんやかんや)→今日も今日とて世は無情である〟など


  • もくせつ:直接描写をしない事で推察を促すもの

   〝それはその、……はい〟〝今度ぼくは、彼女の手料理にあずかる。せいかんを祈ってほしい〟など


  • ぜんそうじょじゅつの規模を少しずつ拡縮して全容と立ち位置を説明するもの

   〝激しい雨音は聴こえていた。やがて部屋の窓が割れた。慌てて外を見てみれば空飛ぶ看板。道路も激しく水没している。TVをつければ大災害だと報じていた〟〝おれの勤務先は全国の土地開発をになう大企業! 配属部署は皆のあこがれ東京都! ……のがさわら諸島、の父島の開発支部、の雑務担当……定期便すら週一とか聞いてねえぞ(涙)〟など


  • あいまい:明確な表現をしない事で微妙さを与えるもの

   〝男性とも女性ともつかない顔立ち〟〝損したとも得したとも言える〟など


  • おり:なんらかの形で文中に別語を折り込んでおもしろを出すもの

   〝めな人。ヤな事あったら、ぐ逃げるし。ライよもう〟〝音楽ノオト(の音:noteノート)〟など


  • とんこう:説得力ある前提を落ちによって台無しにしておもしろを出すもの

   〝「ぼく」とは「じゅうぼく」の事なんだから、従業員にはふさわしい。よって仕事中の人間は、自分を「ぼく」と呼称するべきなんだ! 女子も含めてな‼〟など


  • しゃくよう:既存の事柄を借用しておもしろを出すもの

   〝おれ、帰ったら結婚するんだ〟〝ドクペ箱買いって、天才にでもなるつもりか?〟など


   📍修辞での留意点


 借用は、知らない人にはまったく通じないので、乱用は避けたほうがよい。

 それについて〝こんな事も知らないのかよ〟とめるのは、ものを伝えるはずの立場としてははなはごうまんと言える。


 なおこの中で、っとも気を払われたいのは「たいしょう」だ。

 まずは一般に、まったく同じ情報のれつであっても、後に述べられたことのほうが強いいんしょうを受ける。

 語というものが一次元情報であるだけに、後から来たほうが記憶に新しく、そしてそれに沿うものか、日本語の文法的にも修飾が前、目的が後に来やすいためかとは思われる。

 これを対照の場合で見てみると、まず例えば


  • 味覚とは食べ物の味のみによって左右されるものではない

  • 食べ物の値段はその味と直接関係が無い


と競合するような事実は、たとえ登場箇所に距離が有ったとしても、ただ同じ文章内でじょじゅつされるだけで、つもりが無くとも対照として成立する。

 この場合ならば、前者を後に述べると「満足度には食べ物の味より付加価値のほうが大事」の意、後者を後に述べると「結局は付加価値によって味が変わったりはしない」の意と、完全に異なる意味合いの主張と化す。

 これは、登場箇所に距離が有ればあるほど筆者が見落としがちで、かつ受け手には〝その場その場で言っている事が変わる〟といういんしょうを与えやすいので、十二分に気をつけられたい。


   📍係り結びの位置づけ


 ちなみに、係り結びもあるいはこの修辞に含まれる、と考える事もできる。

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