第3夜

 かァァ…かァァ…


「…」


 朝から不吉にもカラスの鳴き声と共に、俺は目を覚ました。

 カーテンの隙間から差し込む太陽光が、宙を舞う埃を照らす。


「…なんか、変な金縛りだったな」


 俺はまだ重たい瞼を必死に上げながら、か細い声でそうつぶやく。

 確か俺は、いつものように金縛りに会っていたはず。

 それで何故か…あいつが────シセが目の前に現れて、挙句の果てに俺をぶん殴ったのだ。

 そこで俺の意識は途絶え、そのまま眠ってしまったが…


「…」


 今一度当たりを見渡すも、それらしき影は見当たらず…シセ所か、あの顔なじみの幽霊さえも居なかった。


「ま、それはそうか」


 あんなものが現実世界にも出てきたら、流石におかしくなっちまう。


 ま、でも…


 最後に殴られた意味はよく分からないが、俺はあの現実味がすぎるに多少、懐かしさを思い出した。

 シセの余命を知った時。

 シセの棺桶に泣きついた時。

 ────やはり、感慨深い物があった。


「ふっ…久しぶりに、あいつの墓参りにでも行くか」


 俺はそうつぶやきながら、ため息混じりに鼻を鳴らした。

 と、そんな事を思いながらも俺は、ぐぅと両手を天井に向けて伸びをして。


「さて…起きるか」


 続け様にそう一言。

 掛け布団を押しのけて、部屋の端っこに寄せた。

 ゴミ(主にカップ麺)が散乱する中、何とか下のシーツの奪取だっしゅに成功。

 俺は醤油豚骨風味のシミの着くシーツを片手に、脱衣所へと向かう。

 そして、ガラガラと脱衣所の扉を開けた、その時だった。


「────は?」


「‎〜〜〜〜っっっ!!な…なに見てんだてめぇぇぇぇ!!」


 ビターン!!


 裸のシセ小さな手に、ビンタされたのは。


「おぶちっ?!」


 困惑と驚きと少しの羞恥に、俺は打たれた頬をかばいながら後ろに尻もちをついた。


「え…なんで…お前…え?」


 ヒリヒリと、俺の頬は静電気を帯びたかのような痛みが続いていた。

 それが今、この状態が夢でない事を証明してくる。

 シセは尻もちをつく俺を眼科に、


「べ〜!」


 小さく舌を出してそう一言。

 次の瞬間、バン!と強く脱衣所の扉は閉じられた。


「ぁ……ぁ?」


 1人扉の前に残された俺は、目をぱちくりさせながら何かを言おうとするも───その度に口がパクパクと空振りするばかりで、何も口に出す事は出来なかった。

 唯一、この一言を覗いて。


「シセの胸…意外とあったな…」





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金縛りの時にあった幽霊が俺の恋人になった 四方川 かなめ @2260bass

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