第2夜

 ピト


 柔らかく…しかし少し冷たい感触が────何故かおでこに触れた。


「…ぁえ?」


 つぶされたカエルの様な声が、俺の喉元から出る。

それから自分が後ろに押されていると気がついたのは、数秒後の事だった。

 俺の頭がまるで、水の上を滑る小船の様に、エンジンもなしに滑空する紙飛行機の様に、本当に押されているのかを疑うほど、突き出した唇と頭が虚しく、スムーズに枕に返却されたのは。


 ポスっ


 俺は何が何だか分からず、唇を突き出したまま固まる。


「全く、君のぐうたらは…全然変わって無いね」


「…」


「大丈夫?唇が変な形してるけど」


 少女が言葉を発する度に、吐息が俺の唇にぶつかった。

 まだに居る少女に、俺の体はある意味正常な反応を示す。

 と、不自然に盛り上がるお尻下に気がついたのか、少女は顔を赤く染めると。


「うん、分かってた。わかってたけどやっぱり…」


 そこで少女は、話の帳尻を合わせる様に1呼吸置いて、


「君も…もう男の子なんだね」


「…!!」


 拍子抜けを食らって、恐らくマヌケ顔になっているであろう俺に向かって…どこか聞き覚えのある口調でそう言った。


「っっ………………」


 幽霊にしては、思考のありすぎる言葉。

 まるで俺のことを知っているかの様な口ぶり。

 そしてなりより俺の事を…と呼んだ。

 それは俺が目を見開くのに、十分な理由だった。


「っお前…は…」


「久しぶりだね、けんちゃん────いや、もうけんやくんかな?」


 そう言ってくすくすと笑う少女の幽霊…シセは────しかしとは声が違っていた。

 だがしかし、体つきや服装はあの頃のまま。

 華奢な体にヒラヒラの着いたミニスカート。

 上は懐かしいセーラー服で、首元には独特のシミが着いたリボンがひとつ。

 それはどう見ても、シセのものだった。

 あいつの独特の服のたたみ方からなる折り目も、俺が汚したあのリボンも…全部。


「シセ…っ」


「…うん」


「シセぇぇ…」


「う、うん…」


 名前を呼ぶ度に、俺の涙腺からは涙が溢れた。

 病弱だったシセが。

 両親を亡くして、施設でも馴染めずにいた俺と友達になってくれたあいつが。


 …何より────1のあいつが…っっ


 そしてぐずぐずと溢れ出す鼻水もそのままに、俺は布団を投げ飛ばして────!


「シセぇぇぇ!!」


「キッめーなぶっ飛ばすぞてめぇ!!」


「おぶちっっ」




 それが、俺と幽霊とのまるで雷の様な出会いだった。

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