追憶の断章 6ヵ月前
【約6カ月前】
「いらっしゃいませ~、スミカの御主人さま♪ こちらへどうぞ~」
教室に駆け込んだ俺は、その姿を見て絶句した。
義憤に駆られて澄御架に詰め寄る。
「どうぞ、じゃねーよ! おまえ、こんなとこでなにしてんだよ?」
「なにって……メイドさんに決まってるでしょ」
文化祭でにぎわう校舎。1年2組の教室で、澄御架は不思議そうに首をかしげた。
フリルに付いたエプロンとカチューシャ、膝丈スカートのワンピースで、胸元には大きなリボンで飾られている。
いわゆるクラシカルな方ではないメイド服だった。
「じゃなくて、なんで他所のクラスを手伝ってるのか聞いてるんだ。うちのクラスの出し物はお化け屋敷だろうが」
「でもさ、通りかかったらなんか人手が足りなくて大変そうだったから。
ねえねえ! それよりどうだい、このスミカのメイド姿は。この限定SSR並みのレア衣装姿で、2組の集客にも貢献しちゃったりなんかして♪」
確かに、教室の外には主に男性客の長蛇の列ができていた。
ただでさえ元がいいのだから、似合っているかどうかでいえば、それは100%似合ってはいる。
だが、俺の任務は別にあった。
「おまえを連れ戻してこいって、クラスの皆に言われたんだよ。早乙女さんとか困ってたぞ」
「わっ、大変! それじゃあ2組の皆ゴメンね! また終わったら手伝いにくるから~」
「行かんでいい」
ひらひらと手を振る澄御架を連れて、俺は教室を出た。
すれ違う一般客や生徒の視線が、隣のメイド服姿の澄御架に注がれており非常に居心地が悪い。
「っていうか、おまえ衣装返さなくていいのかよ」
「あ、これスミカの私物だから」
「なんでそんなの持ってんだよ……」
澄御架はすれ違った女性が連れた小さな子供に笑顔で手を振っている。
相変わらず誰彼にも愛想を振りまくやつだった。
「――いい気なものね、霧宮澄御架」
その和やかな空気は、現れた剣呑な気配によって一変した。
俺たちの前に、王園が取り巻きの女子たちと一緒に立ちはだかっていた。
厄介なやつに絡まれた、と俺は内心冷や汗が出る。
だが澄御架は、王園の言動の端々からこぼれる悪意などまったく気づいていないかのようにきょとんとしていた。
「あ、令蘭ちゃんもよかったらメイド服着てみる? 絶っっ対似合いそう……!」
ぴくり、と王園が眉をひくつかせる。
本当に、地雷原を全力疾走するようなやつだ。
だが王園も人目のある廊下でことを荒立てる気はないないのか、俺たちの横を素通りした。
だが去り際、小声で呟く。
「このまま文化祭が無事に終わるといいわねぇ」
「それ……どういう意味だよ」
「べっつにぃ。ただうちの1年4組は、色々と問題があるようだから。
なにかトラブルが起こらないとは、限らないでしょう?」
王園はくすりと笑うと、その場から優雅に立ち去って行った。
なにかある。そう直感した。
澄御架にそのことを伝えようと振り向くと、肝心の本人がいない。
気づくと、メイド服姿のまま一般客に向けてチラシを配っていた。
「16時から体育館でバンド演奏やってるから、ぜひ見にきてくださ~い♪」
「なにをやってんだよ、おまえは!」
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