それぞれが行く道
第31話 志の羽ばたく先
マルクスが部屋から辞した後、
「さて、どうしたものですかな。
司馬炎は、もう一度窓の外に眼を移した後に、静かな声音で答えた。
「炎翔は、間違いなく羅馬に行くと言うでしょう。
考えあぐねる様子の司馬炎に、華真が問いかけた。
「司馬炎殿は、胡蝶が
華真の問いに、司馬炎は頷いた。
「相手が皇妃様ですからね。この成都においても、妊婦の治療に当たっては、胡蝶殿が炎翔の助けとなっています。男の医者では気付かぬ事でも、胡蝶殿が直ぐにそれを察して、患者に対応していました。華鳥殿も言っておられましたが、胡蝶殿は、医者であれ患者であれ、目の前にいる者が何を求めているかを瞬時に察する事が出来る
それを聞いた華真は、司馬炎の真意を探る眼で尋ねた。
「差し出がましいのですが、炎翔は胡蝶の事をどう思っているのでしょうか? 父である司馬炎殿に、その事について話をしたことはないのですか?」
華真の問いに対して、司馬炎は首を横に振った。
「胡蝶が炎翔に対して単なる好意以上のものを抱いているのは、司馬炎殿もお気付きでしょう? 炎翔の方はどうなのでしょうね。」
すると司馬炎は、小さく
「炎翔という奴は、自分の
「ならば、父である貴方様から、炎翔に話をされたら
「いや…。今後の羅馬との友好にも大きく関わる事案です。その当事者になる者の父が、直接炎翔に会って目立つのは避けたいのです。ましてや胡蝶殿の事となると、完全に当人同士の問題です。但し父として、炎翔に大切な存在を気付かせてやる事には手を貸そうと思います。」
全てを決めた表情の司馬炎を見て、華真は肩を竦めた。
「分かりました。その事については、司馬炎殿にお任せします。ところでシドニウス殿についてはどうしましょうか?」
司馬炎は、ふっと笑うと華真を見詰めた。
「あの
「そのようですね。そういう客を追い返すのに、潘誕殿が
すると司馬炎が、一つの提案を口にした。
「ならば、店の近くに警備所を
司馬炎の提案を聞いて、華真がにこりと笑った。
「その警備所の担当に、シドニウス殿を…という事ですか。シドニウス殿ほどの武人には、どう見ても軽すぎる役割ですが…。しかしシドニウス殿は、きっと喜ばれるでしょうね。」
翌日、炎翔は父の司馬炎からの文を受け取った。
『お前が羅馬に行くことを決意したと、華真殿から告げられた。
炎翔が文を読んでいた
「あら炎翔様。
明るく笑う胡蝶に、炎翔はそっと近づいた。
「胡蝶、話があるのだが…」
「何でしょうか? 午後に使う
炎翔は、胡蝶に近づくとその両肩に手を置いた。
炎翔の唯ならない様子に気づいた胡蝶も、表情を改めて炎翔に向き合った。
「俺は、羅馬に行く事にした。羅馬の
「どうして一緒に来いと言って下さらないのです。私は、それほどに頼りないのですか?」
半泣きをしながら訴える胡蝶を前にして、炎翔は
「そんな訳がないだろう。お前が
そこ迄言った炎翔は、一度言葉を切って改めて胡蝶と眼を合わせた。
「胡蝶、お前は何があっても俺が守る。だから…俺と一緒に羅馬に行ってくれないか?」
胡蝶はしっかりと
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