第20話 千枚の絵皿とトウガラシ
王宮の
仕事場の一角には四角い薄青の皿が大量に積み上げられ、壁面には巨大な二枚の山水画が貼られていた。
山水画の表面には、黒い糸が等間隔で
その糸で仕切られた一画一画に向かって、絵師達が真剣な眼差しを向けている。
絵師達は、各々が担当となる一画の部分絵を、手元の薄青の皿の上へと書き写していた。
「おい、
絵師達から声が掛かる
「お隣で作業をされている
そんな仕事場に、
「どうだ、耀春。順調に進んでおるか?」
その声を聞いた耀春は、何恭の元へと駆け寄った。
「はい。ようやく絵師のみなさん全員の筆使いが一定して来ました。これまで二ヶ月の間、
耀春の報告を聞いた何恭が、
「しかし、最初は驚いたぞ。二枚の元絵を各々五百に区切り、それを皿に描き移した上で、また組み直そうなどとは…。
「父様が、田楽様の作られた皿を見せてくれたお陰です。今回の使節団接遇の目玉は、なんと言っても二日目に行われる
そう言って壁の巨大画を見詰める耀春に、何恭は頼もし気な視線を送った。
「それにしても、誠に良い発想だ。お前一人だけでなく、絵画処の絵師全員が今回の仕事に取り組めるとはな。全員の眼の色が違っておる。」
田楽の
それを統括する田楽の
「しかし師匠。このように焼き
不安気な顔で尋ねる弟子に向かって、田楽が手を振った。
「心配するな。今回の事で、多くの
そう聞かされても不安気なままの弟子の顔を見て、田楽が笑った。
「それにな。王宮からも素晴らしい話を
それを聞いた弟子の顔に、今度は
「王宮の役人の言葉なんて、簡単に信じて良いんですか?仕事を
そんな弟子の顔を見て、田楽は自信あり気な表情を見せた。
「いや、今回の仕事を
今度は弟子の眼が丸くなった。
「へぇ、そんな偉い人達に、よく会えましたね?」
「その方は、あの耀春嬢の母者の兄君であった。
「へぇ…。それで、どんな素晴らしい話なんです?」
何恭は、弟子に向かってその話を語って聞かせた。
「この地の直ぐ隣に、陶器を売る
田楽と弟子が話をする横で、出来上がった薄青の皿の梱包が始まった。
「これで、基本の皿の
田楽の掛け声を受けた陶芸師達は、
潘誕の店では、主人の潘誕が
その様子を見た華鳥が、潘誕に声を掛けた。
「嬉しそうですね。何か良い
華鳥の声に応えて、潘誕が傍(かたわら)の鍋から中身を皿に
「味見してみてくれ。あのトウガラシを使った料理だ。」
皿に
「何なのですか、この料理は……。真っ赤な汁の中に、見慣れない白い食材が浮いていますね。しかも、この汁は肉を混ぜて
華鳥から問われた潘誕は、自信の笑みを返した。
「その白いのは、大豆を潰した汁に、海水を
華鳥は、潘誕に手渡された皿から、早速ひと
途端に、華鳥の表情が変わった。
「これは…。強烈な辛味を感じるのに、直ぐにそれが何とも言えない
「いや…。王宮に行った時に、
華鳥は、皿の中身をあっという間に平らげると、潘誕に空の皿を差し出した。
「おかわりを下さい。これは癖になる味です。病みつきになる人が多そうですね。」
そんな華鳥の顔を見て、潘誕が満足気に頷いた。
「それならば早速、今晩店で出してみるか。うちの店の常連客連中の舌は一流だ。参考になる話が
潘誕の言葉通り、その晩の店内では、新作のトウガラシ料理を巡って、常連客達が口々に批評を言い合っていた。
「
「俺には、少し辛すぎるかな。もう少し辛味を
「俺は、もっと辛くても良いな。この辛味があってこその料理だ、これは…。」
常連客達の声を聞きながら、潘誕は髭面の
「ふむ…。この辛味の好みというのは、人によって
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