暁と羅馬
第17話 遠い西域よりの使者
そんな部屋に、
「
王平の報告を聞いた志耀は、直ぐに
直ぐに伺候して来た華真は、『
「その国の事、
それを聞いた志耀が、軽く眉を上げた。
「ほぅ。そんな国があるのか。世界は広いのだな。しかし外国との
志耀から問いを受けた華真は、一度拝礼した後に口を開いた。
「司馬炎殿の館に、あの
志耀は記憶を探る表情になり、
「徐庶殿と言えば、最初は三国の蜀に参謀として仕えながら、自身の母者の
志耀の記憶を、華真が肯定した。
「その通りです。魏に降った後も、蜀を
すると、志耀が膝を乗り出して、華真に向き合った。
「その徐庶殿の御子息が、司馬炎殿の館におられるのか。しかも羅馬に行かれた事があると…。徐庶殿の御子息ともなれば、父君の叡智を引き継いだ俊才である筈。華真の兄様。その方を直ぐに成都に招く事は出来るでしょうか? 帝の勅命という形は取りたくはないのです。あくまでご自身の意志で
こうして徐庶の息子の徐苑(じょえん)は、志耀の元に
志耀は徐苑と顔を合わせると、直ぐに深く頭を下げた。
「お父上の事、誠に申し訳ございませんでした。もっと早く父の
志耀からいきなり頭を下げられた徐苑は驚き、そして恐縮した。
「
志耀の横で控えていた華真が、感嘆の表情になった。
「お父上が、そのような事を。しかも徐苑殿は、お父上の言葉に従って、遠く羅馬にまで旅をして来られたのですね。」
それを聞いた徐苑は、華真に向き直り拝礼した。
「今回、成都へのお召しを頂いて、父の言っていた事が真実であると改めて悟りました。もしや、羅馬から侵攻の気配があるのですか?」
「いや…。未だそこまでは。ただ西の砦に羅馬からの使者が訪れ、
侵攻ではなく使者の到来と聞いて、徐苑の緊張が緩んだ。
「
「その通りです。羅馬に
徐苑は一度息を吐き、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「今、羅馬という帝国を統治しているのは、コンスタンティヌスという人物です。」
横にいた王平が、きょとんとした表情になった。
「コンスタン…、テ…。舌を噛みそうな名前だな…」
「羅馬という国は、一時期は遠き西国の地域全てを支配下に収めていました。ところがその後内乱が没発して、帝国は東と西に二分されました。その後それぞれの国に正帝と副帝が置かれて、その四者による権力争いが行われて来たのです。」
それを聞いた王平が眼を見開き、溜め息をついた。
「我が国でも三国の抗争があったが、四者拮抗とは…。大変な状況だな。」
「それを統一へと導いたのが、コンスタンティヌスなのです。この皇帝によって、羅馬は東西の併合を果たして、昔の羅馬を取り戻したのです。」
華真は興味深げに
「ふうむ、なかなかの人物なのですね。しかし
華真に問われた徐苑は、少し考える仕草を見せた後に顔を挙げた。
「統一されたとは言え、
「ほぅ。その遠謀とは、どのようなものなのです。」
「東方にある暁の存在を、皇帝が知ったからこその考えと思います。羅馬の権力争いは、
志耀は黙ったまま、じっと徐苑の話に耳を傾けていた。
「東西が統一され、領土が拡張されれば、何より問題となるのは今後の帝国の防衛。その為には、自国戦力の強化だけではなく、強大な力を持つ他国との同盟が有効と考えたのではないでしょうか。それを真っ先に提案できれば、帝位を狙う他の者達に対しての強い
その時、初めて志耀が口を開いた。
「しかし、それほど大きな帝国が防衛を考えなくてはならない他国など、存在するのですか?」
「
徐苑の話に、志耀は納得顔になった。
「ふぅむ、あの波斯国か…。
「そのような御言葉、とんでもない事です。今になって父の予見の凄まじさを、改めて感じております。」
志耀は、その場にいる全員の顔を見回した。
「そうなれば、その羅馬の使者、
志耀の問いに、華真が同意した。
「それがよろしゅう御座いましょう。徐苑殿のお考え、私も得心致しました。ただし、その
こうしてローマからの使者は、成都へと迎えられる事になった。
「このような遠方まで、ようも来られた。暁への旅の途中には、
王宮の謁見の間に通された使者は三人だった。
いずれも髪は金髪、そして青い瞳をしていた。
徐苑が志耀の言葉を通訳して伝えると、三人の顔に驚きが浮かんだ。
「我が帝国とペルシャの今の関係をご存知なのですね。そのような事まで把握しておられるとは…」
そのような事は当然とばかりの表情を見せなら、志耀が尋ねた。
「羅馬が強大な帝国である事は承知しています。暁から遥かに離れたその帝国から、貴方達は何を求めてここまでいらっしゃったのですか?」
三人の中から、真ん中にいた一人が進み出て拝礼をした。
「
使者の言葉に対して、志耀は難しい顔を見せた。
「それは、御国と波斯国の緊張関係を意識しての申し出ですか?我が暁は、波斯国とは険悪な関係にはないのですが…。むしろ東西の交易を結ぶ道の開発について、話し合いを始めようとしているところなのです。」
志耀の言葉を徐苑が伝えると、三人の使者の顔色が変わった。
「そ、そのような話が進んでいるのですか。」
「我々は、近隣の国と
それを聞いた使者達の表情に、焦りの色が浮かんだ。
「それでは、ローマとの同盟をお考え頂く余地は無いと…」
使者達の顔を見据えながら、志耀は薄く笑った。
「御国と友好的関係を結ぶ事は歓迎です。。不戦協定ならば喜んで受け入れます。我々は、どんな事があっても、
使者達は、返答に窮したように互いの顔を見合わせた。
「分かりました。では、せめて我が帝国からの使節団の受け入れを了承頂けないでしょうか。
使者の申し出に、志耀は
「ふうむ。使節団ですか…。その申し出は、検討して数日中にご返事致しましょう。」
「同盟から転じて、使節団派遣か…。今度は
そう言って、志耀は重臣達を見回した。
「
そう言う王平の言葉に、志耀は片手を振った。
「それは、あちらの考える事だ。
すると華真が、場の全員を見回しながら意見を述べた。
「向こうが来ると言うのであれば、受け入れるのが宜しいでしょう。外交の道を開いておければ、将来いざこざが起こるやもしれぬ芽を事前に摘む事も出来ます。」
華真の言葉に、志耀も同意した。
「うむ、華真の兄様の言う通りだな。」
「それと今一つ。呉郡で建造が進んでいる最新鋭の大型船。その内の一艘で、使者達を羅馬へと送り届けては
華真の突然の提案に、王平が首を
「何の為にそのような事を?」
「使者達が陸路で羅馬に戻るとなれば、再び波斯国を通らねばなりません。それよりも海路を通った方が遥かに安全です。更に
華真の言葉に、王平が納得顔になった。
「
華真と王平を見比べながら、志耀が決定を下した。
「それでは、そのように使者に申し入れる事としよう。」
こうして、使者達は、暁が誇る最新鋭艦に乗船してローマへと戻って行った。
そして一月後、使節団派遣決定を告げる
「羅馬が使節団派遣を決定したとの事です。準備に時間を要するのと、海の荒れる時期を外して出港するので、暁にやって来るのは、半年後になると思われます。」
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