第6話 人相書
それから半年後、ある事件が起こった。
「最近、成都の街に押込み強盗の
隊長の問いに、潘誕が
「勿論です。何でも雨の夜を狙って、大勢で
潘誕の言葉に頷きながら、隊長は客で混雑する店内を見渡した。
「この店は、相変わらず繁盛してますね。最近怪しい連中が店にやって来た事はありませんでしたか?」
隊長にそう問われた潘誕は、首を捻った。
「怪しい連中? はて…。この店には、そんな怪しい連中は来てないと思いますが…。第一、そんなきな臭い連中が大勢でやって来ても、店には入れないと思いますよ。うちの店には
隊長は、潘誕の言葉にちょっと首を
「表にいたあの白い狼ですな。知ってますよ。この辺り一帯の守護神と呼ばれている事は。
そう言った隊長は、
すると、部下は何枚かの紙を取り出して
「実は先日も押し込みがあり、生き残った者の証言から、
潘誕は、ちらりと人相書を眼にした後に隊長に向き合った。
「俺には分かりませんね...。俺は
奥へ一旦引っ込んだ潘誕を見送りながら、隊長の横に立つ部下が、不思議そうな顔つきで尋ねた。
「隊長...。
部下の問いを受けて、隊長は今一度表情を引き締めた。
「あの方は、以前は蜀軍でも武芸一二と言われた方だ。
奥の
「これは....確かに....」
華鳥の背後からは、母の着物の
緊張しているのか、
華鳥が隊長に挨拶をしながら、耀春を前に押しやった。
「この子にも一緒に、人相書を見せて下さい。
部下が取り出した人相書を眺めた華鳥は、首を
「
すると隣で人相書を見ていた耀春が、華鳥の
「母様。この人、三日前に店に来た人よ。昼間の営業が閉まる直前に店にやって来て、黙って煮込みを食べて行った人。」
人相書の一人を指さす耀春の言葉に、華鳥は改めてその顔に見入った。
「う〜ん。でもあの人って、こんな感じだったかなぁ。」
すると耀春は
「わかりにくいのは、顔に陰影がないからよ。こうすれば、どうかしら?」
そう言った耀春は、筆に
それを見た華鳥が手を打った。
「確かにこの人なら、先日来たお客ね。やけに無口な人だと思ったので、良く覚えてる。」
耀春の描いた絵を見た隊長と部下は
「何だ...
その翌日、今度は隊長が一人で、店に顔を出した。
「
更に三日後、今度は隊長が一人の女中らしき女を連れて、また店を
「嬢様はおられますか?実は、成都の
隊長の言葉に、潘誕と華鳥は顔を見合わせた。
二ヶ月後、潘誕が華鳥に向かって溜息を
「困ったもんだ。あれ以来、あの警備隊長がしょっちゅう尋ねて来るようになってしまったな。しかも決まって用件は、耀春に人相書を描いて欲しいという依頼だ。耀春は、警備隊の
困り果てた顔つきも潘誕を見て、華鳥も思案顔になった。
「確かに、このまま放っておくわけには行きませんね。今夜にでも兄上に文を書き、相談してみます。兄なら良き知恵が浮かぶでしょう。」
成都の王宮の一室で、
「
そう
「警備隊長の
王平にそう言われて、華真も表情を改めた。
「それは困るな。
華真と王平が話をしている場に、
「耀春の事、聞きましたよ。
華真と王平は、直ぐに志耀の前に
「
王平から警備隊絵師達の修練の話を聞いた志耀は、納得顔を見せた。
「
数日後、警備隊長の周文の同行を受けて王宮の門をくぐった耀春の前に、王平が姿を見せた。
「周文。
耀春は、王平に連れられ、王宮の
建物の中に入ると、
王平と耀春が入って来たのを見て、一人の総髪の男が立ち上がり、二人に近付いて来た。
「此れは...王平様。お待ちしておりました。ほぅ、
初めて見るその壮年の男を前にして、耀春は男に警戒する眼を向けた。
壮年の男は、そんな耀春に小さく笑顔を見せた。
「怖がらんでも良いぞ。儂はこの
その問いに、耀春はこっくりと
「王平様はな、お前さえ良ければ、
何恭の言葉に、耀春は眼を輝かせた。
「あたしに、絵を教えて下さるのですか?」
満面を輝かせて見上げる耀春を、何恭が見下ろした。
「お前さえ良ければだ。警備隊の絵師達に、人相書の技術を教える為に、王宮に通うそうだな。毎回それが終わった後で、
何恭の言葉を聞いた耀春は、はっきりと首を縦に振った。
顔全体が喜びに輝き、
「凄い。嬉しいです。あたし、絵を描くのが好き。もっと上手くなりたいです。」
耀春の返事を聞いた何恭は、王平を振り返った。
「ならば決まりですな。この娘が王宮に通って来る時は、絵画処が責任を持って、この娘をお預かり致します。」
「そうか。それは良かった。では王宮への
王平はそう言うと、耀春に向かって笑いかけ、歩み去って行った。
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