第4話 耀春と炎翔の捕縛
志耀の前の
部屋の中は三方に棚が配され、天井迄書物がぎっしりと詰まっていた。
部屋の外から声が掛かり、志耀が応えると、扉が開かれ
「何か、新しき農具の工夫があるとか...? 側近の女官は、
華真にそう言われた志耀は、目の前の図面に眼を
「華真の
志耀の言葉に、華真は苦笑した。
「
「二人だけの時なら良いではないですか。兄様が私の師匠である事は事実なのですから。」
華真は苦笑いをしたまま、志耀が指し示した図面に眼を落とした。
「ほう...
華真の返答に、志耀は我が意を得たりとばかりに笑みを漏らした。
「やはり兄様もそう思われますか? それだけではありませんよ。これを教えてくれた者は、
それを聞いた華真の顔にも笑顔が浮かんだ。
「それは妙案ですね。国というものは、上に立つ者だけが
「それなのですが....。此れを教えてもらって思った。今の世には、まだまだ新しき知が
意気込む志耀を見て、華真は
「
その時廊下を走る音が響き、
「申し訳御座いませぬ。しかし、至急に
志耀は、王平へと首を巡らせた。
「捕らえたのなら、それで良いではないか。他国の密偵ならば、警護所にて取調べを行えば良い。」
そう言う志耀に、王平は
「それが、その者達が引き立てられる場に、私がたまたま出くわしたのですが...」
王平はそう言うと、ちらと華真を
志耀は驚いた表情を見せると、直ぐに王平に尋ねた。
「それでその二人は今、
「中庭に引き出されています。」
中庭に通じる廊下を進んだ志耀は、中庭の手前の角で歩みを止め、そっと庭を
中庭の真ん中で、数人の兵に身体を押さえられて
炎翔が手を後ろに回されながら、必死に兵達に向かって
「なぁ、この娘は関係ないんだ。俺が
すると炎翔の隣で、耀春が口を
「違うよ。あたしだって自分で来たんだよ。炎翔兄さまが見たいものがあるって言ったけど、あたしだって他に見たいものがあって....。」
その様子を観ながら、王平が志耀に小声で尋ねた。
「どうします?まさか耀春がこんな所にいるなんて...。あの少年には見覚えはありませんが、兄さまと呼んでいる所をみると、耀春に近しい者ですな。」
志耀は悩ましげな表情で、王平に答えた。
「あれは炎翔といって、司馬炎殿の息子だ。養子だがな...。
「そうでしたか...。しかし、どうしたものですかな? このままでは
すると志耀が、何かを思い付いた表情になった。
「ふむ。そう言えば二人共に、何やら見たいものがあると言っていたな。それでは、王平。まずはあの兵達から二人を解放してやってくれぬか。その後だが...」
志耀の言葉を受け、王平は直ぐ中庭に出て行った。
二刻ほど
「どうだ、見たいものと言うものは見つかったか....?」
呂蒙の声に、書庫の床に座り込んでいた耀春が顔を上げた。
呂蒙の背後から耀春の様子を
床に正座する耀春の前には一冊の画集が広げられ、その手には筆が握られていた。
耀春の前には何枚もの
その様子を見た王平が慌てた。
「こ、こら...耀春。何をしている。このように散らかして。この墨絵は、
「これ...? 此れは、今あたしが描いたんだけど....」
床に散らばった墨絵の一枚を取り上げた呂蒙が、
「何だ....この筆使いは...。耀春。これは本当にお前が描いたものか?」
こっくりと
「この画集を
王平の驚愕につられるように、呂蒙も
「
そう言いながら眉を寄せて絵を見詰める呂蒙に向かって、耀春が無邪気に答えた。
「それは、炎翔の兄さまに写してくれって頼まれたのよ。」
それを聞いた呂蒙が、気づいたように周囲を見渡した。
「何、炎翔に...。そう言えば炎翔は、
すると、耀春は書庫の奥を指差した。
奥の書庫に進んだ呂蒙と王平の前には、机上に
炎翔の背後からその竹書を
「
呂蒙から大声を掛けられた炎翔は、
「そりゃ
それを聞いた呂蒙が、
「何...そんな事まで知っているのか。すると....この難解な韓非子を、お前全て読んでいるのか?」
呂蒙の問いに対して、炎翔は当然といった表情で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます