第3話 煮付けの秘密
その晩の
「この煮付け、出て来るのは久しぶりじゃないか。
「俺にも、それをくれないか。しかしこの店の煮付けというのは、味付けにどんな香辛料を使っているんだ? この前、
客にそう聞かれた
「味付けは、それこそ営業秘密ですよ。おそらく誰が
華鳥がそう断言するのには、
潘誕の店では、肉にしろ魚にしろ、特別な香辛料で下味を付けている。
潘誕が昔からずっと調合に工夫を
それは、華鳥の父である
華翔は、新しい香辛料を入手する
中には、目の玉が飛び出るほど高価なものもあった。
そんな高価な香辛料を、華翔は惜しげもなく潘誕へと送って来る。
しかも、気に入ったものは、幾らでも追加の希望を
実は華翔は、元々の蔵書集めの趣味に加えて、食道楽に
華鳥が、潘誕に
美食の楽しみを知った華翔は、料理には料理人の腕に加えて、使う香辛料の多彩さが重要であることに気付いた。
それからである。
ある時から、それまで以上に
華翔は、潘誕に対して全ての香辛料を使い
しかも料理の値段は、どんな高価な香辛料を使っても普通に
料理を
新しい香辛料が届く
道楽にしては度が過ぎている気がするし、集めた香辛料をを
ある時、同伴客を連れて店にやって来た華翔に、華鳥はその疑問をぶつけてみた。
華鳥の問いに対して、華翔はいとも簡単に答えを返した。
「
それを聞いた華鳥は、内心呆れた。
三年前に、飛仙はその拠点を成都に移していた。
耀春が生まれて、成都に居た方が孫の顔を見に来やすいからだろうと思っていたが、どうも違ったようだ。
その頃から、華翔は店の定休日を狙って、ちょくちょく客を連れて来るようになっていた。
店で食事をしている時は、商いの話なんて全くしていないのに…。
やっぱり、この父という人、どうにも食えない人だ。
そう思いながら、華鳥は別の質問を華翔にぶつけた。
「
そう尋ねる華鳥に向かって、華翔は鼻を鳴らした。
「世の中に
「それじゃぁ、この店で料理を安く出させているのは
「そりゃあ、出来るだけ大勢の舌の肥えた連中に、お
華鳥が、馴染みの常連客達と味付け談義をしているところに、厨房から潘誕が顔を出した。
そして
「今日で引退だそうですね。長い間ご苦労様でした。」
潘誕がそう言って頭を下げたのは、既に初老の域に達した兵士だった。
その初老の兵士は、潘誕の顔を見ると笑いながら手を挙げた。
「お陰で、良い兵隊生活が過ごせた。特に潘誕。お前との出逢いは生涯忘れる事はないだろう。お前の武術の才は、俺が預かった兵達の中では飛び抜けていた。
そう言いながら、その初老の兵士は客の接待をしている華鳥を見詰めた。
「しかし、仕方あるまいな。あのような絶世の美女を嫁にしてしまったのだから。妻子の為に生きると決めたお前の気持ちは良く分かる。お前があの方を
先輩だったその兵士の言葉に、潘誕は
「しかし軍を辞めた後に、この店を開いてくれた事には本当に感謝しているぞ。お前が居なくなって、残された兵達全員がもう
その言葉に、卓を囲んだ兵士全員が
初老の兵士は、ふと店の扉の外を伺う様子になった。
「
それを聞いた潘誕は、直ぐに入り口に歩み寄って扉を開けた。
そこには、全てを察した様子の露摸が
初老の兵は、直ぐに露摸の元に歩み寄った。
「露摸。今迄ずっと俺を見守ってくれた事、感謝する。この後は、残った兵達と、何よりもこの暁の国を守護してくれ。それが俺の最後の頼みだ。」
露摸は、兵士の言葉を聞くと
露摸を囲む兵達全員が、その白く輝く毛並みから立ち昇る何かを感じた。
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