第25話 料理番、奴隷の呪いを解く。

「れお……!」


 ギギギ。


 重くてとても力強い。上から体重で押し潰すみたいに、爪にかかってくる大変な重力。


 フライパン一つでその身を守った僕は、これが精一杯だった。


「ふんぬっ!」


 勢いよく押し返してみせる。そして、ヤツにフライパンを向けて、高らかに宣言して見せる。


「おとといきやがれ。この子は僕のだ。手出しさせるもんか」


 瞬間。わずかに空気が硬直する。僕の勇ましい姿を見たのか、グランドベアはただただ、こちらを見ているのみだった。


「グォル!」


 やがて、大きい立ち姿を止めて、四足歩行へと戻り、また森の中へと駆け戻っていった。


「ふぃぃぃ……。怖かったぁ……」


 僕はケツからペタリ、と地面に仰向けで倒れ込んだ。


「大丈夫?」


 僕が顔を横へ向けた時に、彼女の顔が正面に見えた。


 涙をぽろっと一筋流し、一言だけ彼女は言う。


「うん」


 あ、そうだ。


「っと、ごめん。かなりHP削られたみたいだね……。ちょっと待ってて」


 僕はガサゴソ、と下ろした背負い鞄から、一つ袋の包みを取り出した。


「これ、ローレンバーガーって言うんだけど……。食べれそう?」


 何を急に言い出したのかと、思われるだろう。だけど、今度の食材はちょっと違う。


「……」


 彼女は黙って寝そべりながら、こちらを見つめ続ける。結構ヤバそうだね。


「なら、食べさせてあげるよ」


 僕は袋の包みを破いて、バーガーをちょっとちぎっては、彼女の顔へと近づけた。


「あーん」


「あ……」


 口をちょっとだけ開けて、彼女は僕の指ごとパクリ、と食らいついた。


「――っ!」


 どくん。途端に彼女は大きく目を開いて、体を跳ねさせた。


「……んまい!」


「どうだ? うまいだろ」


 耳がぴょこっと、尻尾をビン、と立たせては急に元気になったみたいに、体をこちらへ起こす彼女。その驚きの表情を見て、僕はにしし。と笑って見せた。


「んああっ!」


 彼女の口から、飛び出したハート型の湯気。それは呪いが1個解けたという事……。


「んっ!」


 身をもぞもぞとさせながら、まだ少し彼女は軽く喘いだ。


「んああああああっ!」


 アレ、前とはちょっと違う。様子が変だ……。


 彼女の口からぽんぽんぽん! と次々に飛び出したハート型の湯気。まるで一気に放出されるみたいに……。


「――っ!」


 彼女の額に、紫の紋章が現れる。そしてそれは、がしゃんと崩れるみたいに音を立てては消えた。


「あれ……? 大丈夫?」


 彼女は僕にそっと肩を預けて、目を閉じて倒れ込む。


「むにゃ……」


 倒れ込むというより、眠り込んだ。一体何が起こったんだろう。


「光の精霊さん、精霊さん。彼女のステータスを鑑定してくれるかい? 光魔法、チェックザフラッシュッ!」


 僕は、両手の親指と人差し指を合わせて、四角を作ったらパシャリっ。と撮影した。



 名前:??? 種族:獣人

 職業:   【LV.9】

 HP:1520(+35000) MP:85(+100)

 STR:82(+100) DEX:63(+100) INT:35(+6700) LUX:48(+900)

 詠唱魔法の効力が上がりました。一部、隠されていたワードを表示します。

 装備:『アークサリナ』の呪縛印が解除されました。

 ※この呪いは自動的に取り外しされます。取り外されたと同時に消滅します。

 スキル:【食事効果】~ローレンバーガー~HPを大きく回復させる。魔法系パラメータを大幅に上昇させる。呪い除けの加護EX2を発動させる。『対象者に付与された呪い、あるいは詠唱魔法についての加護、上位魔法LV.6までの魔法の付与を無効化させる』満腹度を20上昇させる。スタミナ2時間無敵化。火、水、風、雷、土、氷、竜、光、闇属性の抵抗強化大。経験値ボーナスEX(倍率6.00)



 呪い取れた。そしてまた、えぐいこのステータス表記。HPは……。


 良かった。全回復しているみたい。僕は心をホッと落ち着かせた。HP回復系の食事効果を、たまたま引けてラッキーだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伝説ギルドの料理番 メカジキサトシ @Mekajiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ