第21話 料理番、大行列を作る。
「っしゃせぇー! どうぞぉー!」
たくさんの人が、ガヤガヤと騒ぐ声が聞こえる。僕は厨房の暖簾をくぐって、驚いた。
自分から仕掛けたのだから、驚いてどうする。僕は勇気を出して、声を張り上げていた。
席に座って楽しそうにしている面々。咳き込んでまだ調子が悪そうな包帯グルグル巻きの人。列が建物の外まで続いていて、恐らく人の往来の波はまだまだ止まらなそうだった。
「いやぁ、大繁盛ですねぇ」
「こりゃ、凄いですね」
ニコニコ顔のローレンさん。ちょっと僕は苦笑いを浮かべた。
これだけの人数を、僕はさばけるだろうか。
「実はですね。噂を聞きつけた村の人達が、皆で話を広げて、ここまでの騒ぎになったって事です」
「それはうれしいですね。でも一人でコレを回せるか、心配です」
「それについてなんですけど、実は……」
「ボランティアなら、村のうら若き乙女隊がサポート致しまっす!」
「おばあちゃん、アンタはもう若くないでしょ!」
「あははっ! 料理の持ち運びなんかは、私達が担当するから任せてね!」
「よろしくね、お兄ちゃん!」
ローレンさんが連れて来た、数人。見た目の若い女の子達が、メイド服を着て準備をしていた。一人顔がしわくちゃで腰が曲がった高齢の方がいるが……。この村に来たときに案内をしてくれた、小さな女の子とかもいる。
「おお……! ありがとうございます! 大変助かります……!」
僕は思わず笑顔になった。こんな若い子達まで手伝ってくれるなんて、ホント嬉しいな。
「おっと、そうだった。料理が冷めちゃう。さっき出来上がったばっかりだった」
僕は奥の厨房へと駆け込んで、最後の仕上げに取り掛かった。
いくつか、完成したものはあるけど、してないものもある。
プレートでじゅわーっと、音を立てたお肉たちをトングで一枚一枚拾っては、薄く広がった白い生地の上に乗せた。
この生地は膨らませたバルーントウモロコシを、薄く切り下ろしたものだ。加熱したモノ同士、とても相性は良い。そしてこの上に……、切り刻んでおいたブルームキャベツを乗せて……、フレッシュブルーベリーを軽く乗せて……、最後にまた、ふわふわな白い生地ではさむ。
「よし、これで完成っ!」
両手でつかんで食べられるサイズ。円作るように均等に切り分けられた生地で、はさまれた感覚は絶妙なバランス感なはずだ……。
~ローレンバーガー~。
名づけて、ローレンバーガー。バーガーとはなんぞや? と思う方も多いだろうが、伝説の料理人、ニッポンジンが遥か彼方のイセカイから持ち込んだ……、らしい。詳細は分からないけど。あれ、ニホンジンだったっけ? まぁいいや、そんな事どうでも。
「うわぁ……。なんかコレ凄く可愛くないですか?」
「良い匂いですね。美味しそう……」
「うわー! すっごい!」
厨房の匂いを嗅ぎつけて、女の子達が中へと入り込んでくる。
「お、食べてみるかい? いいよ。ストックはたくさんあるからね」
「良いんですかっ! ありがとうございますっ!」
「わーい! 皆より先に食べちゃお」
「やったー! さすがお兄ちゃん!」
僕の一言を聞きつけて、女の子達は喜ぶ。まぁ、お客さんに出す前に、ある程度感想は聞いておきたいよね。もし、駄目だったとしても修正が利くし。
とは言っても、僕には絶対の自信があった。
パクリ。
一同は、一斉に口へと頬張る。
「ほわぁぁぁっ!」
「あぁぁぁん! うまぁぁぁ!」
「お兄ちゃんすごいすごい! 美味しすぎだよ! さすがだね!」
とろけるような顔つき。身を悶えさせるような味わい。ピョンピョンと跳ねる幼女の姿。
各々の姿を見て、自身の腕にちょっと感動してしまう。まだだ、まだ笑うな……。
絶妙のバランス感とは上手く言ったものの、正体そのものはホントにバランス感一色だ。
柔らかふわふわの生地に、サクサクなキャベツと焼いたお肉で、はさんだ事。フレッシュブルーベリーはジャムのように、調味料的な味わいをもたらす。全部が全部、パズルのピースみたいにかっちりとハマった。奇跡的な食材の力だ。最後に上下の生地の上に焦げ目をちょっと入れてみたのは、僕からの心意気。
まぁ、試食した時点でかなり美味しかったから、いけると思ったんだよね。
「じゃあ、皆。たくさんの量が見てわかる通り、積みあがっているから、出来上がった順にたくさん持っていってくれるかい?」
「了解です!」
「あいあいさー!」
「私に任せて! お兄ちゃん!」
僕はプレートの上に、次々とお肉を乗せていって、じゅわーっと、一気に焼き上げる。
山のように積みあがったキャベツ、バルーントウモロコシの生地が、後ろのテーブルに見える。僕はまとめてとんとんとん、と置いた順からはさんでいって、完成させた。
「おまちどッ! ローレンバーガーだよッ!」
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