第20話 料理番、勝手にレベルが上がってゆく。

 げげっ! 一気にレベル7まで上がってる……! どうしてだろう……。


 ん、ユニークスキル? なんだこれ。食事効果を得た者からの……、ってコレ僕が戦闘に出なくても上がるって事……?


 【黄金血族】に居た時はそんなこと無かったし、後から追加されたスキルなのかな……。


 もしかして、レベルを上げれば料理効果も上がったりするのかも。でも今は、目の前の料理に集中しよう。色々と考えるのは、この村を救ってからでも遅くないはずだ。


 バルーントウモロコシ。こいつを水に一定時間付けてみたけど、変化は無い。見た目は小さい豆みたいなサイズなんだけど、名前からして何かアクションがあると思うんだよな。


「炎で炙ってみるか……。火の精霊さん、精霊さん。手のひらの上に炎の渦を滞留させてくれるかい? 火魔法、ファイヤートルネードッ!」


 ぼうっ。パチパチ!


「む」


 左手のひらの上でくるくると回る炎の渦に、ちょっとずつバルーントウモロコシを近づけると、むくむくっと大きさをグングン増していく。


 正解だったみたいだ。


 さすが名前の通り。あっという間に熱しされた空気を取り込み、丸い円柱型の大きなサイズへと変化する。触った感じ、ふわふわだ。とても柔らかい。


 僕は、少しちぎってみて、そのまま口の中へと入れてみた。


 ぱくり。もぐもぐ。ごくん。


「これは……」


 美味しい。軽く火で炙っただけなのに、味が付いてる。白く柔らかい繊維のような中身が、柔らかすぎない絶妙な優しさ。色々な香辛料、ジャムみたいなのにとても合いそうだ。


 これだけだと、ちょっと物足りない感じはする。最低でも塩は欲しいな。中には身のタネがある。ぽりぽりと音を鳴らしてかじってみた。豆っぽい。硬くは無いようだ。


 一粒で、これだけ大きく膨らむって事を考えると……。山のように積みあがった袋の束。袋の中にはこの小さな種が、いくつも入ってる。よし、メインディッシュはコレにしよう。



「ワイルドボアだッ! 気を付けろッ!!」


「ブモォッ!」


「わわわ、ワイルドボアだっ!」


 鋭く赤い眼光、真っ直ぐ伸び切った牙を見て、一同は恐れおののく。


 前足をゆらりゆらりと回して、突進する構えを見せていた。


「おっと、ここは俺に任せ……」


 背に背負った大剣の柄に手を伸ばし、アレスはゆらりと木の陰から動き出し……。


「てりゃ!」


 ザシュッ!


「ブモモォッッ!」


 ワイルドボアは一瞬にして、絶命した。


 誰もその一連の終幕に気が付いていない。……ただ一人を除いて。


「ぶい」


 獣人の姿をした女の子は、無表情で軽くブイサインを作る。


「「「うおおおああああッ!」」」


「やるじゃねぇか!」


「ホントに強いなぁ! お前!」


 沸き立ってはしゃぐ、男共。彼女の爪、服に飛び散った血の跡で、恐らく彼女がやったのだと、全員が予測を立てたのだろう。


「…………」


 アレスは固まった。自分の出る幕も一瞬すら、無かったのだ。


 彼女は一瞬にして消え、ワイルドボアの背後に着地をした。そして、遅れて風の刃が上から下へと、一閃。遅れて縦に入ったのが見えた。彼女の爪の威力だ。……そのはずだ。


 アレスはまた顎を手で支えて、考え込む。


 彼だけが、自分達の身に起きた異変について、注意深く観察していた…………。



「この厨房、これだとちょっと狭いかな。土の精霊さん、精霊さん。ほどよく火が通って、なおかつたくさんお肉が焼けそうなプレートを作ってくれるかい? 土魔法、クラフトサンドッ!」


 ズズズ、柔らかい粘土質の塊を手に持って、詠唱をする。緩やかに溶けて、両手を広げて薄く伸ばした。真四角になるようにこねる。薄く、薄く、より広く。


「出来たっ。こんなもんかな」


 最後に取っ手の部分を作って、完成させた。横に幅広く作ったプレートは、厨房の狭さぐらいの大きさをすでに取っている。


「火の精霊さん、精霊さん。このプレートを加熱してくれるかい? 火魔法、ファイヤートルネードッ!」


 僕は、厨房の真ん中に配置された暖炉に近づいて、たくさんの薪の木々に、手のひらを近づけた。手のひらから放たれた炎の渦が、暖炉に火を灯した。


 パチッ、ボボボッ!


「風の精霊さん、精霊さん。このローレン牛のお肉を、薄くスライスしてくれるかい? 風魔法、エアースラッシュッ!」


 しゅんしゅん、と音が鳴り、僕が宙に投げたお肉の塊が、空中で切り刻まれて、プレートの上に落ちた。


 ローレン牛は油が豊富に含まれている。すぐにプレートはパチパチ、と音を立ててすぐに加熱されていくようだった。


 よし、野菜類をすぐに準備しなきゃね。


 とんとんとん、と包丁の音を鳴らして、ブルームキャベツをすぐさま切り刻んでいく。

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