第19話 料理番、ユニークスキルを獲得する。

「これ、上手くいくかなぁ」


 正直、不安だ。でもやるしかない。やらなきゃダメなんだ。


 僕はキュッと、エプロンの紐を結んでコック帽を被ったら、パチンと顔を両手で叩く。


「よしッ! やるぞッ!!」


「ローレン牛。美味しいんだけどなぁ」


 僕は悩んでいた。最初はステーキにしてやろうかと思っていたけど、村中の人に食べさせる量があるわけ無い。使える部位とかも問題だ。となると、選択肢は一択だよなぁ。


 みんな大好き焼肉だね。肉が食べれない人もいるだろうし、野菜類や、メインの穀物系とかも考えた方がいい。そもそもこの村についても全然知らないんだった。


「勇者さま、言われた通り。こちらがこの村で取れる特産品リストになります」


 ローレンさんが、僕にメモ書きをよこしてきた。ふむふむ。


 バルーントウモロコシが主要収穫物なのか。4割ぐらいがコレ。あとは、フレッシュブルベリーとか、飼ってるホワイトピグだとか、ローレン牛。あとは個人農家さんの野菜類。


 結構あるじゃん。でも、肉系しか思いつかない。バルーントウモロコシって、どんな食材なんだろう……?


「とりあえず、色々と試してみたいので、農家の方に声を掛けて貰っても良いですか? 僕が言うのもなんですけど」


「はい! 分かりました! それにしても、レオさんの料理、とても美味しいですよねぇ。でへへ。次の料理は何かなぁ」


「は、早く言ってきて貰っていいですかっ!」


 僕はニヤついたローレンさんにはっぱを掛けた。


 いや、嬉しいんだけれども。あまり言われ慣れてないからね。恥ずかしくても、しょうがないよね。


 あらかじめ持ってきておいた野菜類が底をついた。色々試食してみて分かった事

の一つ。


 僕がコレ、料理だと認識というか、名前付けて無いと、料理ボーナス発動しない。


 つまりは、適当に作ってもダメって事だ。焼肉単体でも恐らく発動すると思うけど、たぶん部位を変えただけじゃ、変わらないと思う。僕がその認識だから、そうとしか言いようがないけど。


 野菜類が無くなったって事は、以前作った料理も作れないって事。今はまだ足りないけど、調味料とかもっと簡単に手に入るもので、誤魔化す技も身に着けるべきだな。


「レオさん。言われた通り、持ってきました」


 ローレンさんが、ぷるぷると腕を振るわせて、厨房へと入ってくる。


 両脇に抱えた、大きなバスケット。その中にはいくつもの食材が入っているはず……。


「ローレンさん、ありがとうございます。そこ、置いておいてください」


 僕はちょうど、色々な調味料を試すため、お鍋に火を通し、ぐつぐつと色んなものを煮込ませてから、ちょっとずつお玉ですくっては飲む。すくっては飲むを、繰り返していた。


「村の皆さんが躍起となってくれて、まだまだ食材は入ってきそうです……」


 苦笑いに近い笑みを浮かべて、ローレンさんは腰に手を当てた。


「おお……! そうですか!」


 そりゃ、大変助かる。色々な組み合わせを試してみたいなぁ。料理人だけにね。



「なんか、体軽くね?」


「まるで、力がみなぎってくるみたいだぜ!」


「俺もだ! 今日はすごく調子が良い!」


「ガハハッ、それに俺達ゃ、アレスさんがいる。モンスターなんか、へのかっぱだぜ!」


「…………」


 少年から手渡された地図をもとにして、村の外れにある柵を乗り越えた一同。


 屈強な男共は、軽く武具を装備しており、これまた陽気な様だった。


 その中で一人、アレスは物静かに腕を組んで、集団から一人孤立する。


「こっち、です!」


 タタタ、と駆けて皆を先導する彼女。


 彼女のレベル的にも、実力的にも、問題ないとは把握しているが、怖いので軽鎧だけは身に着けさせた。多少の防御力はアップするはずだ。


「ピギィッ!」


 草むらを分けて、モンスターが飛び出してきた!


「出た出た! ホーンラビットッ!」


「角が危ないから、必ず盾で弾いてから叩こうッ!」


「よし、お前ら! 隊列を崩す……」


「――やっ!」


「ピギャアッッ!!」


「?」


「え?」


「お?」


 瞬間的にホーンラビットは絶命する。飛び出した奴隷の子が着地した瞬間だけ、どうやら視認できたようだった。驚きのあまり、男共は体が固まる。


「ほう……」


 ただ一人、それを見ては感心したアレスの姿。


 プァプァプァプァーン!


 ランクアップのファンファーレが鳴り響いた!


「らんくあっぷ」


 彼女は腕をぐーぱーと握り込んで、自身の体の感触を確かめていた。


「おお! やったぜ! レベルが上がった!」


「俺もだ! 経験値って、パーティ組んでなくとも貰えるんだな!」


「おいおい、楽勝じゃね? どんどんレベル上げちまおうぜ!」


「……っ!」


 急に顔つきを強張らせて、顎に手を付きながら考えこむ、アレスの姿。


 何やら、自身の体に起こった異変に、気が付いたみたいに。



「あれ……? あれ……? どうなってるんだ、コレ」


 まったくわけが分からないよ。


 ブルームキャベツを包丁で切り分けていたら、突如頭上からファンファーレが鳴り響き、レベルが上がってしまった。


「とうとう、料理をするだけで、レベルが上がるようになったの……? 僕」


 そんな事は、あり得ないと思うけど……。


「雷の精霊さん、精霊さん。何故、ランクアップしたのか、この紙に内容を書き起こしてくれるかい? 雷魔法、ライトニングライティングッ!」


 僕は即座に、その場にあった適当の紙をちぎっては、空中へと投げた。瞬間的に

ピカッと光って、黒インクが一気に書き起こされる。



 レオ

 料理人【LV.7】※ランクアップまで、残りEXP36。

 前回の獲得経験値90(内訳9+9+9+9+9+9+9+9+9+9)。

 HP:34(+900) MP:40(+300)

 STR:14(+500) DEX:18(+1500) INT:36(+500) LUX:12(+500)

 スキル:【食事効果】~ホーンラビットのとろけるシチュー~スピード系パラメータを大幅に上昇させる。呪い除けの加護を発動させる。スタミナ2時間無敵化。雷属性抵抗強化小。脚力強化大。雷属性へのダメージ強化小。経験値ボーナス大(倍率3.00)。

 詠唱魔法の効力が上がりました。一部、隠されていたワードを表示します。

 『ユニークスキル』:【飽くなきグルメへの探求心】食事効果を得た者からの経験値ボーナスを獲得する。

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