第17話 料理番、本物の勇者に出会う。



 名前:??? 種族:人間 性別:男 年齢:22

 職業:農民【LV.1】

 HP:5 MP:1

 STR:2 DEX:1 INT:1 LUX:1

 装備:『アークサリナ』の呪縛印。対象の心臓を残りあと49日までに死滅させる。呪鍵×10。

 ※この呪いは取り外し不可である。呪鍵によってのみ、解除可能である。



 名前:??? 種族:人間 性別:男 年齢:43

 職業:村警官【LV.3】

 HP:29 MP:5

 STR:9 DEX:5 INT:1 LUX:1

 装備:『アークサリナ』の呪縛印。対象の心臓を残りあと24日までに死滅させる。呪鍵×10。

 ※この呪いは取り外し不可である。呪鍵によってのみ、解除可能である。



 名前:??? 種族:人間 性別:女 年齢:7

 職業:村人【LV.1】

 HP:3 MP:1

 STR:1 DEX:1 INT:1 LUX:1



 もう、こんなところでいいだろう……。


 僕は金色の光の魔眼を発動させるのを止め、目を閉じた。


 うわ、出た。アークサリナの呪縛印。と、最初は思ったけど、なんとなく呪いというフレーズに聞き馴染みがあったから、正直覚悟はしていた。


 チェックザフラッシュを通して、辺りをぐるりと一周した時に、気が付いた事がいくつかある。


 この呪いに掛かっている人とそうでない人。残りの寿命も含めて、皆バラバラという事。


「大体の事情は、なんとなく分かりました。ローレンさん、ちょっといいですか」


「はい」


「おお! ホントに勇者だった! 魔法使ったぞ!」


「俺は本物に掛けていたぞ! 疑っていたのはお前だからな!」


「すごいのう……、魔法が使えるとは……」


「さっすが、お兄ちゃん!」


 青年を呼び寄せて、また奥の部屋へと足を運ばせたときに、後ろから声が聞こえた。


 ちくしょうめ……。


「チェックザフラッシュッ!」


 奥の部屋は畳が敷き詰められていて、寝転がっている人で溢れている。もう、見た感じ全員が包帯グルグル巻きの重症患者っぽかったから、僕は寿命だけを逐一確認していた。


「寿命が、明日の人がいる……」


「勇者さま? 分かるんですか?」


「ええ。僕にも良く分かりませんが、決められた日数に向けて死に至るように、体を蝕む呪いみたいですね」


 ジュケン、はどれも残り×10。明日、呪いが発動して死ぬとなると、今から料理を振舞って救えるのか……?


 そもそも、今日来たばかりのこの村に、そこまでする義理が僕にあるんだろうか……?


 いや、無理だ。間に合わない。この病弱っぷりを見るに、食べる事もかなわな……。


「…………」


「? 勇者さま?」


 僕は何のために、料理人になったんだっけ。


「――っ! ローレンさん!」


「! はい!」


 僕は唐突に叫んだ。彼は慌てて、それに反応する。


「今すぐ、村中の人達をここへ集めてください! 僕に考えがありますッ!!」


 そうだ。僕は一体、何のために。


「勇者さま。料理大会とは一体……?」


「最初にお断りしておきますが、ふざけているわけじゃありません。これが僕の能力なんです。他人に料理を振舞う事で、掛けられた呪いが解ける。……みたいな」


 ローレンさんは怪訝な顔になっていた。半信半疑というか、冗談を言っているのかと、恐らく疑っているはずだ。


「大会、とは言いましたが僕一人で、料理を振舞わさせていただきます。そして、寿命が近い方から順に食べて頂く」


「ええ……。ええと、ちょっとおっしゃってる意味が良く分からないのですが、勇者さまは普通の冒険者では無いのですか?」


 ギクリ。


「良いんですかッ! この村を救わなくてッ! 僕は真剣なんですッ! 真剣に答えてくださいッ!」


「は、はいっ! すみませんっ!!」


 僕は猛烈に怒ったフリをする。騙していてホントにごめんなさい……。


 だとしても、今明かしたところで門前払いをされたら、もうこの人達は二度と救えないんだ。


「ありとあらゆる食材を、この村にある食べ物、いや食えるものを、全てここへ持ってきてください。あと、屈強な男達を何人か用意してください」


「屈強な男? とは?」


「言葉のあやです。この村の周辺には、豊富な山菜の数々や、良質な肉となるモンスターが出土します。いいですか、この地図のこの辺りで……」


「待て待て待ってください! この村の人を危険な森に入れるおつもりですか? それだけはやめて頂きたい! いくら村が切羽詰まっていようとも、この村の人はみんな大切な家族なんです! こないだグランドベアに襲われたばっかりで……!」


「なんだぁ? 騒がしいな」


 声を荒げたローレンさんの音を聞きつけて、男がこちらを覗き込む。


 いや、男だけじゃなかった。他の人達がこちらの様子をうかがっていた。


「アレスさま。いらしていたのですか」


「アレス?」


「ああ、勇者さま。こちらはアレスさま。勇者さまと同じく冒険者の方です」


 げっ、僕以外にもいたのか。冒険者。


「アレス・ノーガンライトだ。こいつぁ、一体何の騒ぎだ?」


「いえ、こちらの勇者さまが、呪いを解除できる。とおっしゃるのです」


「あぁん? 勇者、ねぇ……」


 ギクリ。ビクビクと肩が震える。彼は僕の目の前に立って、見下ろすように顎に手を置いて、首をかしげた。


 男はぱっと見、かなり身長が高い。筋骨隆々な上腕二頭筋。背には大きなロングソード。さすが勇者っぽい。


 っじゃなかった! バレる……。


「んー?」


「あ、あの! 実は僕っ、魔法系統が得意でしてっ、そ、そのっ! 皆さんに掛けられた呪いを直せるのですッ!」


「ふーん。まぁいいや。俺、魔法良く分かんねぇし」


 ぷいっと、男はそっぽを向いて、そそくさと歩いていく。


 良かった。って事は、チェックザフラッシュを使われる危険性は無いって事か……。


「あぁ、そうだ。ローレンさん、金貨160枚頂くぜ? 良いんだよな?」


 するすると、背負っていた謎の木箱をカチリ、と開けて中身を取り出す。


 それはグランドベアの頭部……。真っ白な毛皮のその下に、真っ赤な血が滴る……。


 この人、マジもんの実力者だ。僕がいた【黄金血族】ですら、単独で倒せる人など、そう多くは無い。背に抱えているその大剣で、ぶった切ったのか? 物凄いな。


「ええ。さすがですね、アレスさま。正直、もうこの村には出せるお金はそう多くは無いのですが、依頼は依頼。仁義は通させていただきます。おい、ちょっと」


 ローレンさんは他の人を呼びつけて、耳打ちをした。その人はすぐさま駆け出していく。


「こういっちゃなんだが、破綻するぜ? 巣には行ってみたが親熊がいねぇ。なぜこの村近辺を縄張りにしたのかも分かんねぇ。一体倒したところで、何にも変わんねぇだろうよ」


「ええ。分かっております……。おっと、来たか」


「ローレンさん、これを……」


「こちらが、金貨160枚になります。またどうぞ良しなに」


 ローレンさんは土下座をした。その前には袋に詰められた金貨の山が見える。


「…………」


 キラキラした金貨を見て、僕だったら飛びつきそうなもんなんだけど、アレスさんは黙ってローレンさんの姿を見ていた。何か言いたげな様子で……。


「まぁ、良いけどよ」


 アレスさんは袋の紐をキュッと結んで、そのまま肩に掛けて、立ち去ろうとしていた。


「あ、あのっ!」


 僕は呼び止めていた。彼は表情も変えずに振り向く。多分、今しかチャンスは無い。


「僕に雇われてくれませんか? 僕の依頼報酬をお譲りします」


「あ?」


 イラついたみたいに眉に力を込める。風貌もあって、かなり怖い。


「この村の方々を救うには、この森周辺で取れる食材が重要なんです。見たところ、かなりの実力者だと拝見しました。ボディガードとして、雇われて頂けませんか」


「……どういうことだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る