第12話 料理番、戦闘後は飯にする。

「れお、わたしやった。いいこして」


「へぇ?」


「いいこ、いいこして」


 近づいて来ては、そのまま帽子を脱いで、僕にそっと肩を預けてくる彼女。


「えぇ……」


 めちゃくちゃ甘え上手になっていないか、この子。


「い、いいこいいこ……」


「ん、んん」


 僕は頭を優しく撫でる。その度に耳がピョコピョコと可愛く跳ねる。そして、気持ち良さそうに唸る彼女。もう獣人というより、ケモノそのものである。


 ぐぅぅぅ……。


 僕の腹の虫も、こりゃ限界だ……。


「ご飯にしようか」


「わーい!」


 両手を上げて、喜ぶ彼女。料理人魂がうなるぜ。


 さて、このホーンラビット。どうやって調理してくれよう……?


 串焼きにして火であぶるのも、うまそうだ。


 そういえば、この村に来たとき、なんか色々と貰ったんだった。


「うーん……」


 僕はリュックの中身をゴソゴソ、と確認して、両腕を組んで唸った。


 食材自体はあるようで、無い。昨日の残り物とさっき貰った特産品。


「あれ? あれは……」


 僕は唸って頭上を見上げた時、木になっているドングリイモの姿を発見した。


 ドングリイモ。高く高く空へと、木の幹を張り巡らせる事によって、地上の捕食者に食べられにくい様に進化した、天然モノで取れる中ではかなりレアモノの、食べられる食材じゃないか。


「風の精霊さん、精霊さん。あの高い位置にある、ドングリイモの根を切って、落としてくれるかい? 風魔法、エアースラッシュッ!」


 宙を唸り、見えない刃が空へと駆け上がる。ぼとりぼとり、と落ちてきたドングリイモの大きさ、柔らかさ、色味、僕はすぐに手に取って確かめていた。状態はかなり良さそう。


「……よし!」


 決めた。やっぱり鍋にしよう。


「落ち葉や枯れ木を集めて貰ってもいいかな? その間に僕は準備するよ」


「わかった!」


 それを聞きつけて、元気良く彼女は駆け出していく。


「水の精霊さん、精霊さん。このローレン牛乳を、水で薄めてくれるかい? 水魔法、ウォーターブレスッ!」


 貰ったばかりのローレン牛乳の蓋をきゅぽん、と開け、フライパンにそのまま全部投入する。そこへ小瓶から放たれた水流が、フライパンの中の牛乳と混ざり、ぐるぐると回転する。


「水の精霊さん、精霊さん。空中で滞留してくれるかい? 水魔法、ウォーターブレスッ!」


 もう一本、僕は水の小瓶を開けて、中から飛び出した水流が、空中で丸い球体の形を作って留まっている。


「風の精霊さん、精霊さん。このホーンラビットを、切り刻んでくれるかい? 風魔法、エアースラッシュッ!」


 僕はホーンラビットの足を持ち上げた。そこをしゅんしゅん、と宙を唸って透明な刃が通っていく。バラバラ、と崩れるように落ちた肉体が、ぽちゃん。と滞留していた水の玉の中へと落ちた。


 ホーンラビットは肉質が柔らかく、味も大変美味しいため、確かに人気の食材で間違いない。だけどそれは、ちゃんと臭みを取った場合の、話だ。実はケモノ肉の中で、匂いはどちらかと言えばキツイ方。獣人の彼女はあまり気にしないとは思うけど、あくまで僕は料理人。ちゃんとお客様に出す、って感覚を常に持っておかなきゃ。


 水の玉の中で血が染み出て、赤黒く濁っていく。血をしっかりと吸ってくれているようだ。僕は水の中に手を突っ込んで、皮を剥いでみたり、爪や頭部、食べない部分を器用に両手で取り除いていく。


「れお! おちばもってきた!」


 タタタ、と彼女は駆けて両腕いっぱいの落ち葉や、枯れ木、大きめの薪を持ってきた。


 なんとも可愛らしい笑顔で、タイミングも良いし、大きい薪もあるじゃないか! なんて気が利くんだ。


「火の精霊さん、精霊さん。この落ち葉に火を付けてくれるかい? 火魔法、ファイヤートルネードッ!」


 僕は、持ってきてもらった落ち葉や枯れ木を石で両サイド固定して、山なりの形を作る。そこへ、左手のひらをかざし、炎の渦を真っ直ぐ放出していく。


 ぼうっ。パチパチっ。


 炎が当たった部分から、勢いよく火が燃え上がっていく。


 ……よし、今度は。

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