第11話 料理番、初戦闘をする。

 ひたすら、前を突っ切って走る。


 その時、ガサガサッと草むらを分ける音が聞こえて、僕は注視した。


 僕の目の前に、モンスターが現れた!


「光の精霊さん、精霊さん。あの敵のステータスを鑑定してくれるかい? 光魔法、チェックザフラッシュッ!」


 僕は右手と左手の親指と人差し指で、四角の枠を作り、パシャっ。と撮影して見せた。



 【ホーンラビット】別名:ツノウサギ。  <LV.4>  危険度E。

 その名の通り、角の生えた兎である。貧弱なHPで狩りやすく、駆け出し冒険者からの評判は高い。ただし、攻撃力の高い角突進に注意。また取れる肉がとても美味で、料理人からの信頼も厚い。



「ホーンラビットきたぁ! 最初のモンスターに相応しいんじゃないか? コイツ」


 目の瞳孔が赤く染まって、頭には一本の角。それ以外はただの野兎に過ぎない。絶好の相手だ。いきなりグランドベアじゃなくて、本当に良かった。


「こここ、来いッ!」


「ピギャアッ!」


 僕は震える手で、フライパンを構えた。


 その姿を見て、ホーンラビットは真っ直ぐ角を僕に向けて、走り込んでくる。


「フッ、おりゃあ!」


 僕に向かってジャンプした瞬間、僕はサイドステップして、ヤツの腹に一発フライパンをぶちかます。


 ガツン。


「っし、当たった!」


 思いっきり手ごたえがあった。そのまま空中で吹き飛び、ゴロゴロと転がって木にぶつかる。


 だが喜んだのも束の間……。


 すぐに立ち上がって、こちらを睨みつけるホーンラビットの鋭い眼光の上に、表示された『1』の文字。


 1ダメージ……。だと?


 恐らくはレベル格差のせいなんだろう。僕のレベルは1で、ホーンラビットは4。いくら、HPが少ない個体だとはいえ、何回当てるつもりなんだ? キリがないぞ、コレ。


「って、しまっ……!」


 ぼけーっと、してたらもう目の前には、ジャンプして突っ込んできてるヤツの頭。僕は判断が遅れて、一瞬で身構える事しか出来なかった。


「ピギィッ!」


 着地して、僕を見ては雄たけびを上げたホーンラビット。


「あぶ……」


 左腕にギリギリすれて入った切り傷。そして目の前に表示された『4』の文字……。


 僕のHPは5。つまり、あと1回受けたら死ぬ。死…………。死ぬのか? 僕……。


 途端に目の前が真っ白になる。死にたくない。嫌だ。そんな……。


 何か魔法。攻撃に使えそうな魔法、覚えていたっけ。思い出せ、ええと……。


「ピギャアッ!」


 頭の中ではあたふたとして、棒立ちでいる僕に向かって、いきなりジャンプをして、そのまま角を向けて、真っ直ぐ僕の元へと……。


「れお!」


 一閃。


 彼女の爪が、縦に大きく光った。


 シュン、と空を鳴らした爪は、真っ直ぐ上から下へと、切り開かれる。


「え?」


 びっくりしたのは、彼女の叫んだ声でも、勇気ある攻撃でもなく、ホーンラビットの上に表示されていた数値を見てしまったからだ。


 『601』。


「ピギィィ……」


 一瞬にして、絶命したホーンラビット。なんだ……? 何が起きたんだ……?


 彼女もまた、レベル1だったはずだ。レベル格差的に言っても、この圧倒的な高威力。


 プァプァプァプァーン!


 突如、ランクアップのファンファーレが鳴り響く。


「雷の精霊さん、精霊さん。この紙に今、ランクアップした内容を書き起こしてくれるかい? 雷魔法、ライトニングライティングッ!」


 僕は鞄から紙の束を一枚無造作にちぎり、空中へと投げた。そしてあっという間に、黒印字が書き起こされていく……。



 レオ

 料理人【LV.2】※ランクアップまで、残りEXP6。

 前回の獲得経験値9。

 HP:8 MP:8

 STR:2 DEX:2 INT:4 LUX2

 詠唱魔法の効力が上がりました。一部、隠されていたワードを表示します。



 ???

 【LV.2】※ランクアップまで、残りEXP6。

 前回の獲得経験値9。

 HP:14(+600) MP:7(+600)

 STR:8(+600) DEX:4(+600) INT:2(+600) LUX:4(+600)

 スキル:【食事効果】~ワイルドボアの甘辛炒め~全ての能力を600向上させる。



 うげげっ、なんじゃこりゃっ!


 僕の料理の効果えげつないぞ、なんだコレ!


 そうか、だから『601』だったのか……。


 コレ、小型モンスターどころか中級程度なら、一掃できるレベルじゃん……。


 むむむ。こんなの聞いたことが無かったぞ。なんで誰も教えてくれなかったんだ……。


 あぁ、でもそうか。【黄金血族】なら、全員のステータスは高いし、誰もこの能力に気が付かなくても……、


「ってんなわけ、あるか!」


 勝手に一人で、憤慨していた。

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