第9話 料理番、依頼を受ける。

「働かざるもの食うべからず。だが、腹が減っては戦はできぬ……」


 ここは集会所。お屋敷みたいな立派な建物の前で、僕はボソリと呟いた。


 結局、一睡も出来なかった。ギルドを追い出されたショックもあり、奴隷を勢いで買ってしまった後悔もあり、そもそも腹減りが気になっていた事もあり、これからどうやって生活していこう(エトセトラ、エトセトラ……)……みたいな。


 都会の街、ギンガルドでは世界有数のギルドや、最先端の武器防具専門商会、最高峰の鍛冶屋だったり、高級魔物グルメ店など、様々な面でのエキスパートが集う有名な街だ。


 金持ちの為の街。そういった意味合いで、物価はかなり高い。なので、こうして集会所の前には張り出される大きなボード、求人票を求めては多くの冒険者でごった返している。


「料理人募集、ないかな……」


 背が低い僕は、ぴょんぴょんと跳ねて、屈強な男達の背の後ろから、求人票を探す。


 見た感じ、料理関係は無さそう。ちょっと受付嬢さんへ尋ねてみよう。


「すみません。料理人の求人を探しているんですが……」


「あー、料理? 無い無い! 大型魔物の集荷ならあるんだけど、ぱっと見ヒョロヒョロじゃん! 諦めて、簡単なモンスター狩りしときなって!」


 フランクな感じでケラケラと笑う受付嬢さん。そんな……。


 でも受付嬢さんの言う通り、選り好みしている猶予は、あんまり無いんだよな。


 この子を上位鑑定士さんに見せてあげたいし……。


「?」


 僕の服の袖を掴んで、こちらを見上げる姿。あんまり良く分かって無さそう。とりあえず、お金を稼がないとだな……。


「あれ? その子。むむむ……」


「な、なんですか」


 しかめっ面をして睨んだ表情を見て、慌てて僕は、彼女を後ろへ寄せて帽子をかぶせた。


「ちょっと、その子。獣人……だね? …………うん。ダンジョンに行ってみない?」


「え?」


 僕と彼女の姿を一通り見て、何やら訳アリだと察したのか、腕を組んで目を閉じて頷いては、そう言った。


「こんな求人があるんだけど」



 【討伐依頼】 ~近隣の村を荒らすグランドベアを退治せよ~

 ローレン村近郊ダンジョン内地底5Fにて、グランドベアの巣が発生。度々ローレン村の畑を荒らし、住人を攻撃し、負傷者発生。ただちに討伐されたし。

 依頼主:『ローレン村の村長』グランドベアの被害が増えていて、大変困っています。

 討伐報酬:金貨160枚。



「き、金貨160枚だってっ……!?」


 僕は目を輝かせて、渡された一枚の紙に釘付けになった。


「っじゃなかった! ダメダメ! 僕まだレベル1なんですっ! こんな危険な依頼……」


「じゃあ。獣人連れまわしてるの、通報しちゃおうかなー」


「え?」


 小言でボソリと聞こえた受付嬢の言葉に、ギクリと体が固まった。


「獣人と言えば、戦闘種族。多分大丈夫っしょー」


 ニヤニヤとこちらを指差して、笑って見せた受付嬢。ちょっとイライラする。


「ほ、他は無いんですか! 大体グランドベアなんて、上位モンス……」


「ねー! みんなー! 聞いてー!」


「わーっ! 分かりました! お受けしますッ!」


 僕は慌てて、求人票にサインして突き返した。


「うひひ、いってらっしゃい! 次の方ー!」


 流れるように僕は求人票を受け取って、後ろの人に背中を押されて、その場を後にした。


「け、契約してしまった……。モンスター討伐…………」


「もんすたぁ?」


 地面に向かって両手をついてうなだれる僕の後ろから、聞こえた彼女の不思議な声。


 この世界で獣人は珍しい。だからこそ、それを逆手にとってハメられた。


 ぐぅぅ……。許すまじっ……!


 もう、違約金を払う余裕なんて無い。戦いたくないのもあって、料理人をやっているのに……。


 とほほ。

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