第7話 料理番、餌付けをする。
~ワイルドボアの甘辛炒め~。
とりあえず名づけたら、こんな感じ。僕は、一つだけ持ってきたお客様用の皿に盛り付けた。別に盗んだわけじゃないよ。料理人らしくいつもイメトレをしていたいから、同じモノを密かに購入しただけだ。
「とりあえず、それ食ってごらん。絶対うまいから」
お互いベンチに腰掛けたまま、彼女へお皿とお箸を手渡していく。
ホクホクと漂ってくる湯気の香りが刺激的に鼻孔をついて、焦げ目が少し見える程度に丁度良い加減の温度で焼かれた、ワイルドボアの肉の断面図が露出する。
「おおおー!」
耳をぴょこぴょこ、尻尾をばたばた、と目を輝かせてよだれを垂らす彼女。ただ、僕の差し出した皿を眺めて続けている。って、アレ?
「ふふっ、いいんだよ。もう食べても」
待ったの状態で、待っていてくれていたみたいだ。本当に小動物みたいだ。恐らく奴隷だったから、主人の命令を守るよう、しつけられたりでもしたのかな。
「あ、あう」
「あはは。手袋外さないと、食べられないよ」
僕のGOサインを聞きつけては、あたふたして、器用に箸を持てない彼女を見て笑った。
「やだ」
「へ?」
彼女は腕を反対方向に隠し、僕をツンと退ける。
そんなにその手袋気に入ったのか? なら……。
「ちょっと貸してごらん。食べさせてあげるよ」
僕はお皿とお箸を受け取って、料理を軽くひとつまみしては、彼女の口元までゆっくりと持っていく。
「ほら、あーん」
「あ、あむ……」
少女は頬を赤く染めて少し恥じらいを見せ、パクリっ。と、一口思い切って頬張った。
「ん、んー……」
そして目を閉じながら噛み締めるように、もぐもぐと口を上下に動かして……。
「んまいっ!」
目をキラキラと輝かせては、両手をブンブン、尻尾をバタバタ、耳をピョコピョコ、と喜びを爆発させて、雄たけびを上げる。
断じて。断じて僕の趣味では無い。無いが、なんだろうこの感じ……。
「もう一口、あーん」
「あーむ……」
パクリっ。
一度味を知ってしまったが最後、己の恥をも掻き捨てて、食らいつく。
「もっと」
すっかりと緩み切った顔で、一心不乱かつ情熱的に、僕の手を求め続ける。
ちょっとエロイ。というか小動物的で可愛いな。餌付けをしたがる人の気持ちが、少し分かった気がする。僕が買ったんだから、これぐらい許してくれよな。傍から見てもマジで僕ヤバいヤツじゃん……。
って、アレ?
「ん、ん、んあーっ!」
身をもぞもぞ、と悶えさせて、突如として叫んで見せた彼女。口からピンク色のハートマークの湯気を飛ばしていた。それはまるで、絶頂しているかのように……。って、まさかっ……!
「光の精霊さん、精霊さん。彼女のステータスを鑑定してくれるかい? 光魔法、チェックザフラッシュッ!」
パシャっ。と音が鳴り、瞼が開けられないほどの眩しい光が放たれる。右手と左手の、親指と人差し指で、四角を作った枠内の人物を対象として、ステータスを鑑定する魔法だ。
【チェックザフラッシュ】光魔法LV.1。光に照らされた生物の状態を観測する。
人物とは言ったが、正直生物ならば、何でも鑑定できる。確かコレの上位魔法にどうしても覚えたい光魔法があったっけ。写真魔法とかいうヤツ。母さんとの思い出を、少しでも多く残しておきたかったからだったんだけど……。僕に魔法の才能があったらなぁ……。
「っ、じゃなかった! えーと……」
名前:??? 種族:獣人
職業: 【LV.1】
HP:7(+???) MP:5(+???)
STR:2(+???) DEX:1(+???) INT:1(+???) LUX:1(+???)
装備:???の呪縛印。対象の??を??日までに死滅させる。呪鍵×(??-1)????????。
スキル:【食事効果】~ワイルドボアの甘辛炒め~??を??させる。??の??を??。????????。
「……なんだこれ」
さっぱりピーマン、わけわかめ。鑑定スキルが低いのがいけないのか分からないけど、ところどころ全く読めない。呪鍵×? ジュカギ? ジュケン? なんて読むんだコレ。僕の作った料理の名前、そのまま反映されてるし……。ってかそもそもこの子の名前すら知らないんだった。
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