第16話 異世界返りの元勇者が黒幕と対峙するんだけど、なにか質問ある?
カツーン、カツーン……
寒々しいまでにだだっ広い空間に、靴音がこだまする。
「さて。
「その前に
悠然と微笑む青年に、冷たい声を返す剣一郎。
誠は、初めて気付いたというように、椅子に縛られた
「ああ、彼女の身を案じているのかい? 安心してくれたまえ、まだ傷一つ付けていないよ。まだ、ね」
明確な脅迫を含んだ言葉に、剣一郎は唇を噛み締める。
「……なにが目的だ?」
「いくつかあるけど、まず君がボクらの仲間になってくれないかな?」
「なに?」
「そうしたら、とりあえずこの聞き分けの悪いお嬢さんをボクと一緒に説得して欲しい。最初の仕事として、ね」
誠は優美な仕草で手を伸ばし、絵里の顎をくいっと持ち上げる。
びくり、と彼女の体が震えた。
「……この人のいうことに耳を貸しちゃだめよ」
絵里は上ずった声ながらも、剣一郎が聞き取れる声量で、はっきり伝えてくる。
「と、まあこんな案配さ」
パッと手を放し、つまらなそうな顔で肩をすくめる誠。
彼は、椅子の傍らに立つ例の中年男に顎をしゃくる。
男は虚ろな目で、絵里にさるぐつわを噛ませた。
「彼女にボクの所属する『勇者の会』の真の目的を告げて、協力を打診したんだけどね。すげなく断られた上に、ボクから聞いたことを公表する、なんて言われちゃって」
「で、拉致して監禁したわけか」
にっこり笑う誠。
「うん」
剣一郎はしばしの間、無言で彼を睨んだのち、低い声でたずねる。
「……勇者の会の真の目的とはなんだ?」
「規制解除さ」
「なんだって?」
「君も知ってのとおり、今の日本政府は異世界返りの元勇者に様々な制約をかけている。異世界で得た力を自由に振るえないのはもちろんのこと、仕事として活かすことさえも許されていない」
剣一郎の脳裏に先日の大衆食堂でかわした会話が蘇る。
『日本の法律では魔法による治療は、医療行為として認められていません』
『ばかげた話だよねえ。国の決まりなんて、国民のために存在するはずなのに、その決まりのせいで大っぴらに救済活動ができないなんて』
「たしかお前はあのとき、『そうは思わないか?』と俺に聞いたよな?」
「うん。よくおぼえてるねぇ」
「俺も正直ばかげていると思う」
おっ、という顔になる誠。
「でも、だからといって定められたことを自分勝手に破っていいとは思わない。これが俺の答えだ」
「ふーーーーーん」
誠はひょいとお手上げのジェスチャーをする。
「君もこっちのお嬢さんと同じことを言うんだ。じゃあ仕方がないね」
初めて、誠の顔から笑みが消えた。
すうっと切れ長の目をさらに細め、剣一郎を見下ろす。
「少々強引な手でいくしかないなぁ」
その言葉が終わるころには、剣一郎は弾かれたように階段に向かって駆けだしていた。
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